福井「むろまち」

王道を行く「とんかつ」の名店

福井市駅前近く、柴田神社からほど近い路地裏にある「むろまち」はとんかつの名店として多くのファンに愛されてきた。福井で「とんかつ」というと濃い味のソースがかかった「ソースカツ」が知られている。福井のとんかつといえば、ソースカツが有名なのだが、私はどうもあのソースカツが苦手だ。ソースの味が濃過ぎ強すぎて、豚肉の淡い旨味が負けてしまう。あれを「福井の味」として全国のとんかつファンに認めさせるのは無理があろう、と私は常々思っているところだ。

一方、「むろまち」のとんかつはそうではない。美味しい豚肉の淡い味わいを活かすいくつかの種類のソースは、「むろまち」独自のものだ。ご主人と奥様の二人でかれこれ40年も続けてきた理由は、それだけ根強いファンがいるということの証であろう。だから、ご自分の仕事の範囲で精一杯できるという計算なのであろうか。お店はこじんまりとしている。人気店だからといって拡張したりしない。こういうスタンスは正解だと思う。女将さんは素敵な黒の洋服を着てらっしゃるのにノーメイク。お愛想もおっしゃらない。まさに味で勝負!という感じである。

店内は明るく、箸置きにもなまのヒノキの葉が差してあったりで、気遣いが伺われる。一人ひとりの箸置きに花や緑の葉などが活けてある。こういう気遣いは女性ならではのものだ。しかも、テーブルには布製の真っ白のクロスがかかっている。ポトリとソースをこぼしたら大変、と客も気を使うだろう。しかし、こういうデリカシーは店の雰囲気をとても良くするものだ。掃除がし易いビニールクロスでは、それこそ場末の食堂に堕してしまうことを女将さんはよくご存知なのだろうと拝察した。「むろまち」といえば、「味噌カツ」だよ、と友人がのたまうので味噌カツを所望する。

焼き鳥にしても田楽にしても味噌ソースというのは甘い、というのが定番なので、甘みの苦手な私は心配したのだが、出てきた味噌カツの味噌はいわゆる味噌本来の持つ旨味の甘さの範囲で、しかもとても香ばしくコクがある。友達と、フィレカツ、ロースカツ、それにエビフライも頼んで、ビールもいただき、大変なボリュームになってしまったが、これは美味しい、と時折目が合う女将さんと目で微笑みを交わし、気持ちよくとんかつを堪能した。

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