京都 東福寺 方丈庭園

京都の作庭家 5 重森三玲

京都一の大伽藍を誇る東福寺は、1236(嘉禎2)年の着工から1255(建長7)年まで、19年の歳月をようする大事業の後に竣工した。寺域は東山の南麓を流れる川を挟んで広がり、秋には洗玉澗(せんぎょくかん)という渓谷が美しい紅葉に彩られる。臥雲橋(がうんきょう)、通天橋(つうてんきょう)、偃月橋(えんげつきょう)の3つの橋が境内地を結んでいるが、そのうちの一つ、通天橋からの紅葉の景観は見事であり、11月下旬には日本中から大勢の参拝客が押し寄せる。そこで、人の波にもまれずに、ひっそりと渓谷の景色を楽しめるスポットをご紹介したい。その場所というのは、永遠の和モダン、重森三玲(しげもりみれい)作庭の魅力的な日本庭園に囲まれた東福寺方丈である。

散策の順路

仁王門から東福寺境内に入ったら、まずは臥雲橋を目指す。臥雲橋からも洗玉澗の紅葉を見ることができるが、週末には立ち止まることさえできないほどの人出だろう。橋を渡って左に曲がると右前方に巨大な本堂が見える。左手にはすでに通天橋に入るための長蛇の列ができているかもしれない。そこを通り抜けて、本堂を越える。するとすぐ左に方丈と庫裏が並んでいるので、庫裏から方丈庭園に入る。

方丈の四方には異なる趣向の4つの庭があり、西庭と北庭の間の回廊から、通天橋と紅葉に埋め尽くされた洗玉澗を静かに眺めることができる。私たちが訪れた日はちょうどシーズンのピークで、通天橋は人であふれていた。だが方丈庭園には、しばしたたずんで、心ゆくまで秋の日を楽しめるほどの静けさがあった。

東福寺 方丈庭園

東福寺の方丈庭園は、1939(昭和14)年に重森三玲によって作庭された枯山水で、「それぞれのテーマを抽象的に表現した庭」であることが特徴である。

南庭は中国の蓬莱神仙を題材に、白砂で大海を、石組みで四つの島(仙人の住む不老不死の島)を、築山で京都五山(中国の五山とも)を表した。西庭はツツジを大胆に刈り込んで、市松模様に配置し、孟子が土地制度の理想として説いた井田法(せいでんほう)に因む稲田をイメージするものだという。北庭は敷石と苔を使って小さな市松模様を作り、奥に行くほど背景にとけ込むようにしてある。これは、インドで誕生した仏教が東へ広まるさまを示している。東庭は東司(トイレ)に使われていた柱石を利用して、北斗七星の形に配置した庭である。柄杓の形をした北斗七星は、僧侶が身を清めるときに用いる道具の象徴である。

四つの庭には、仏教に因むテーマが散りばめられており、素材は木や苔、石、砂など、すべて我々に馴染みのあるもので構成されている。にもかかわらず、この庭には新鮮な印象がある。そこが、三玲が生み出した「永遠の和モダン」という芸術なのであろう。

重森三玲とその作庭

三玲の庭園における特徴は、独特の石組みと、デザイン化された地模様にある。三玲は空間に彫刻を置くように石を立て、市松模様に植栽を施し、築山や州浜を曲線で描く新しい意匠を散りばめた。職人の語るところによれば、三玲は他の作庭家たちとは比較にならないほどスピーディに、次々に石の位置や角度を決め、後から変更をすることもなかったという。また、山ほどある石の中から欲しい石を必要なだけ選んで、余ることも不足することもなく作庭した。石組みに対して一心不乱に集中する三玲に対し、職人たちの集中力も極まったようだ。職人たちは、三玲の短い言葉に瞬時に反応して、絶妙な動きで石の位置を定めていった。石を組む技巧について三玲は、「神の存在に接近することを念願しつつ、神としての感覚のひらめき」で行ったと述べ、また「・・・(石は)神の命ずるままに動き、かつ立ち上がるのである。・・・(私の)無我夢中の中に一種のインスピレーションがはたらくことによって、(私と一心一体となった石は)一分の隙もない角度で組まれていったのである。」と語った。

三玲の作庭にはまた、15才から始めて生涯にわたり愛し続けた生け花の心得が、存分に生かされていたと言われる。

このシリーズについて

平安京遷都から今日までの1200年間、京の都には、星の数ほどの寺社や庭園が造られました。その中でも名庭と呼ばれる庭には、大きく分けて三つの形式があります(複数を組み合わせたものもありますが)。1)枯山水:石や砂で水の流れを表現したもので、方丈や書院などから眺める庭。2)回遊式:多くは池の周囲を散策しながら、様々な角度から楽しむ庭。3)抽象的枯山水:伝統的枯山水を継承しつつ、モダンなデザインを取り入れた庭。

京都の庭園の歴史は神泉苑から始まり、鎌倉時代以降、上記のような三つの形式に発展していったようです。このシリーズでは、京都の名庭園をご紹介しながら、それらを設計した作庭家(庭園プランナー/庭師)の、庭園に関する独自の考え方を探っていきたいと思います。

1 夢窓疎石:天龍寺 方丈庭園(池泉回遊式)

2 小堀遠州:南禅寺塔頭 金地院 鶴亀の庭(枯山水)

3 石川丈山:詩仙堂(枯山水+池泉回遊式)

4 七代目植治:無鄰菴(池泉回遊式)

5 重森三玲:東福寺 方丈庭園(抽象的枯山水)

なお、平安時代の京都では、庭で船遊びをしたり、建物をつなぐ回廊から景色を楽しんだりしました。回廊巡りを楽しむ京の庭シリーズでは、縦横にはりめぐらされた回廊から鑑賞する庭をピックアップしてご紹介しています。

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