郷愁、古典美、伝統、高級感、・・・お手軽な快適さより、こんな価値観を重んじる人々を驚嘆してやまないのが箱根 富士屋ホテルだ。1878年に創業したこのホテルは、日本に現存する数少ない西洋風クラシックホテルの一つで、古き良き時代を彷彿とさせるかぐわしき香りに満ちている。当時の日本には、西洋から沢山の人や文化が流入していた。日本人男性までが洒落た口髭を蓄え、女性達は美しい羽根帽子やイブニングドレスを身に纏い、華やかな舞踏会が毎夜繰り広げられる、そんな時代に富士屋ホテルは誕生したのだ。そしてこのホテルは、過ぎ去りし懐かしき日々の面影を今もなお留めている。かつては新しかった建物の内装は時の流れと共に古び、美しい木の壁や天井、手すりも色褪せ、レストランからバーに至るまで全てが薄暗い。にもかかわらず、このホテルでの滞在はとびきり明るく楽しいのだ。なぜか? 忘れてはいけないのが、ここは箱根だ、ということだ。なんといっても日本屈指の温泉リゾートなのである。クラシックホテルと温泉、最高の取り合わせではないか。
ホテルについて
箱根の人気が高まるにつれ富士屋の評判も上がり、建物や施設が次々と新築されていった。150に及ぶ客室にはそれぞれ個別の名前がつけられ、花にちなんだ名前の客室もある。「ローズ・ルーム」や「桜ルーム」、「ロータス・ルーム」に泊まる日があなたにも来るかもしれない。畳敷きの和室はこのホテルには存在せず、客室全てが洋室だ。天井は高く広々としている。ただ、なんといっても古いホテルなので、時に擦り切れ、古びれた感がするのは否めない。しかしここに泊まれば柔らかい肘掛椅子や古風な書き物机、その他骨董価値のある家具に遭遇することができるだろう。
ホテルのサービスは抜群で、全てのスタッフが英語を喋る。メニューも英語で書かれ、優雅な着物姿のウエイトレスまでもが英語で話すのだ。
ホテルを探索
ホテル内をうろつくのも楽しい。長い廊下を行くと、壁のそこここに日本的な絵画が飾られており、過ぎ去りし日の富士屋ホテルの写真を見ることもできる。テニスに打ち興じるチャーリー・チャップリンや着物姿のヘレン・ケラー、ロビーに足を踏み入れるインドのネルー首相、ホテルを出立する天皇皇后両陛下、ポーズをとるジョン・レノンとオノ・ヨーコの立ち姿など、ホテルの長い歴史を思わせる写真たちだ。スイミング・プールも良い雰囲気を醸し出している。なんと温水で、近隣温泉から湯を汲み出しているらしい。
また、ホテルの外も面白い。近所には小さな骨董店が4~5件ほどあり、可愛い小物やお土産品、本物の浮世絵まで売っている。
丘をちょっと登り、路面電車にも乗ってみよう。天候や時季にもよるが、富士山が大きく間近に迫って見える。雪に覆われた冬の富士山、これ以上美しい山は世界中どこに行っても見つからないだろう。