福井の愛宕坂

足羽山にかかる歴史の階段

福井市の中心部に、下界の喧騒を穏やかに見守るように聳え立つ自然の砦がある。足羽山だ。山頂に行くのは簡単で、車で行けば自然公園や艶やかな緑を気軽に楽しむことができるが、地元の人々の一番のお気に入りは何といっても自分の足で登ることだ。

愛宕坂。福井に来るとこの名を頻繁に耳にする。街中に貼られているポスターで見ることもある。歴史の流れの中で自然に付けられたこの名前は石造りの階段を指しており、その石段は足羽山の麓から頂上まで116メートル続いている。愛宕坂という名には「愛」を意味する漢字が含まれており、この名には単に魅力的な階段というだけでなく、深い意味が込められているのだ。

明治維新以前、足羽山は愛宕山と呼ばれていた。愛宕坂は「愛宕に至る坂」というような意味で、その地域を訪れる人々にとって、この道を行けば愛宕神社に至るという道しるべでもあった。江戸時代中期、愛宕神社は修験道を実践する修験者達が集う主要拠点だった。修験道は、神道と仏教にそのルーツを持つ。愛宕神社を拠点とし、修験道は北陸一円、そして日本の他の地域にも広がっていった。その後歴史は流れ、石段尽くしのその坂はのちに高級レストランや茶室によって有名になる。

歴史上の全盛期を過ぎた愛宕坂だが、訪れる人々を未だその美しさと石段にまつわる歴史の重みで魅了し続けている。山の中腹には「愛宕坂茶道美術館」があり、参加可能な茶会や伝統的日本庭園、そして茶道が中国から日本に伝来した時代の工芸品などを堪能することができる。春に足羽神社の春祭りを訪ねると、愛宕坂の樹齢370年に及ぶしだれ桜が満開に咲き乱れる様が息を呑むほど美しい。春以外にも年間を通じてアートの展示や研修会が行われ、蝋燭が灯されたロマンティックな夜のライトアップや、美しい行燈の灯りに映し出された庭々や建物などの風情を楽しむことができる。

愛宕坂の名は「愛」の文字で始まる。歴史的には愛と何ら関係はないのだが、なぜこの愛宕坂の石段が地元の人々や観光客達に愛され続けているか、あなたも一段、この愛しき階段を登ってみればわかるだろう。

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