ちょうど夕暮れ前、私は「博多町家ふるさと館」を後にしました。ふと来た道を振りかえると、道は多くの人で溢れています。そのほとんどが若いカップルです。人々の流れは、私とは逆方向に向かっています。私はさっと向きを変えて、櫛田神社 の鳥居の下にあったその流れに加わりました。
しばしば人々は、親しみの意味を込めてこの 櫛田神社を”櫛田さん”と呼びます。三人の守り神がいると信じられており、受験生は合格祈願や学業成就のために訪れます。ちょうどそれは受験シーズンでした。
入り口に鳥居の上部で進行方向の奥の方がよく見えませんでした。中庭からは慌しく耳障りな羽ばたきが聞こえ、そして列がゆっくりと進むにつれて前方にはなにやら何羽もの鳥が見えてきました。雀かな・・・?それともムクドリのざわめきか何かか?このハイピッチな耳障りな音は、日が落ちるまで続きました。そして、ついにその瞬間は来たのです。日暮れと共に鳥たちのなぎ声がピタっと一斉に泣き止み、静粛の中に拝殿から神主の単調な読経が響き渡りました。それはとても非日常的で美しく、また厳粛で神秘的な瞬間の体験でした。私が日本にいる間に、もしここを再び訪れたとしても、同じ体験をすることは二度出来ないだろうなと何度も思いました。再び静粛への戻る前の最後の瞬間まで、心へと響く神主の声を心から堪能しました。それはとても不思議で神秘的な体験でした。
元旦の数日後、美しく着飾った参拝者が神社を訪れています。女性は着物を身にまとい、3つの白い羽飾りに、藍色の帯などとても華やかです。そして、神社の象徴である御幣(神道の祭祀で用いられる幣帛の一種で、2本の紙垂を竹または木の幣串に挟んだもの)が、全ての入り口にミカンと緑樹 と共に飾られています。 提燈の下では、学生たちが今年の運勢を占うためにおみくじに夢中になっています。
手を清めるための手水舎 は大理石で作られおり、そこには巨大な神輿を男たちが担ぎ、引いているイメージが刻まれています。 実は、櫛田神社は博多祇園山笠 祭りのゴールになっています。博多祇園山笠のクライマックスにあたる行事はタイムトライアル。一番山笠が山留めをスタート、博多の総鎮守櫛田神社境内の清道を回って奉納する。その後、二番山笠から八番山笠「走る飾り山」までが5分おきに出発し多数の男たちが交代を繰り返しながら博多の町を舁き回り、須崎町の廻り止めまで約5kmのコースを駆けります。7月の最も早かった神輿を決める一大行事です。本堂の周りには、伝統的ないくつもの神輿が並び、乗り手や巫女 などのキャラクターで色鮮やかに飾られています。
想像してみて下さい、1トンちかくもあるこの重い大きな神輿を力強く引く男たち姿とその精神を。夏になったらまたいつか、私は再びこの神社を訪れるべきでしょう。今までにない、そして二度と経験することの出来ない、この夏の体験を求めて。