先日福井の泰澄寺を訪れた時、境内の片隅に建つ小さな稲荷神社を見つけた。不思議なことにこの神社には、日本のお稲荷さんならどこにでもある狐の石像がない。その代わり、古井戸の中に並べられた小さな地蔵たちを発見した。今では使われていない朽ち果てた井戸の中に、壊れて苔むした地蔵たちが行儀良く並んでいる。そのいたいけな姿を目にして、しばし感動に耽ってしまった。その後寺院に電話した際、この稲荷神社が第二次世界大戦後、前住職の久志貞浄 ( くしていじょう ) 氏により建てられたと知った。しかしなぜ、どんな経緯で、いつこの神社が建てられたかは分からないらしい。一つ言えることは、この寺は今まで一度も観光化されることなく、福井の豊かな自然と共に何世紀もの間生き続け、今後もこのまま静かに存在し続けるのであろう、ということだ。そうあってほしい、と静寂に満たされた境内を眺めながら思った。
福井の泰澄寺シリーズ
1. 福井の泰澄寺
2. 泰澄寺の三十三カ所観世音菩薩
3. 地蔵パラダイス: 泰澄寺
4. 泰澄寺の二つの池
5. 泰澄寺の座禅石
6. 泰澄寺の白山神社
7. 泰澄寺の伏見吉祥稲荷大明神