上高地は、飛驒山脈(北アルプス)の南を流れる梓川の上流に位置する景勝地です。標高3000mを越える山々に囲まれた平地には木道が整備されていて、快適なハイキングができます。英国人宣教師・ウォルター・ウェストンは、土地の猟師・上条嘉門次の案内で、1893(明治26)年に前穂高岳に登頂して以来、嘉門次と深い親交を結びました。その後、1896(明治29)年にウェストンがイギリスで出版した『日本アルプスの登山と探検』は、ヨーロッパの人々に、上高地の魅力を初めて紹介しました。上高地バスターミナルから梓川に沿って南西に下る木道は、大正池へと続きます。この池は、1915(大正4)年に焼岳が噴火し、火砕流によってせき止められてできたものです。朝靄にけむる山々を眺めながら、色づく草木の間を1時間ほど進んでいくと、山の影を落として漣立つ美しい池辺に出ました。深く息を吸い込めば、体の隅々に山の精気が行き渡るようでした。