京都嵯峨野、二尊院「九頭竜弁財天」~第一部

九頭龍伝説とヤマタノオロチ

京都「二尊院」の本堂横にある「九頭竜弁財天(くずりゅうべんざいてん)」の前に立った時、私は不思議な感慨に心が満たされた。

「九頭竜」といえば、福井平野を流れる大河「九頭竜川」であり、そして全国に伝わる「九頭竜伝承(でんしょう)」である。

九頭竜伝承の起源としてもっとも有名な話が「古事記(こじき)」にもある。日本最古の歴史書である『古事記』は和銅(わどう)5年(712年)、太朝臣安萬侶(おほのあそみやすまろ)らによって献上され、日本創生から推古(すいこ)天皇までの出来事が記されたものだ。

ヤマタノオロチ退治伝説はその上巻に記される出雲神話(いずもしんわ)の一つである。

神代の昔、神々が住む高天原(たかまがはら)を追放されたスサノオは出雲の国、肥河の上流に降り立った。川を見やると櫛が一つ流れている。水からその櫛を拾い上げるとスサノオは川沿いに上って行った。川のほとりに庵があり、その庭先で若い娘と老夫婦が共に抱き合いながら泣いている。この老夫婦はアシナヅチ・テナヅチという夫婦神であった。娘はクシナダヒメと言った。

「いかがなされた。」

男の声に娘はふりむいた。泣きはらした顔だがスサノオはクシナダヒメの神々しいまでの美しさに一目惚れしてしまった。

アシナヅチが答えた。

「私達には娘が八人おりました。ところが、高志(こし)から毎年恐ろしい怪物がやってくるようになりました。8年前からです。そして私らの娘を一人ずつ食っていきおった。もうこの子しか残っておりません。それもまもなくいなくなってしまうかと思うと。悲しゅうて、悲しゅうて。」

この高志というのは現在の福井県から新潟県辺りまでをさす古代の地名で、高志は「越」と表されていった。越前、越中、越後という地名に残っている。ヤマト王権が及ばなかった遠い土地、という意味があったやもしれぬ。

「どのような怪物ですか。」

とスサノオが尋ねると、

「それはそれは恐ろしい化け物じゃ。ヤマタノオロチといいます。大きな龍のような胴体で、大蛇の頭が八つ、龍の尾が八つあります。真っ赤な目でにらまれると身体が動かなくなってしまう。今年もそろそろヤマタノオロチが来る頃じゃて。」

とテナヅチはクシナダヒメの頭を胸に抱きながらとつとつと答えた。

「申し遅れました。私はスサノオといいます。私がそのヤマタノオロチを退治しましょう。その代わりにクシナダヒメを私の妻にいただけませんか。」

クシナダヒメは顔を上げるとスサノオを見た。大きな瞳が涼し気にきらめいた。

「承知しました。どうぞ娘を助けてください。」

とアシナヅチ・テナヅチは声をそろえて答えた。

 すると、スサノオはクシナダヒメを櫛に変え、我が髪に挿した。そうして夫婦に言った。(第二部に続く)

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