福井: 開花亭 sou・an

銀座歌舞伎座の建築士、隈 研吾氏設計の福井老舗料亭別館

ある日、福井の友人に誘われた。「浜町にいい日本料理屋があるので行きませんか?」と言うのだ。福井に住んで3年、人に誘われるままあちこち出掛けたものの、浜町という地名を聞いたのは初めてだった。「浜町ってどこ?」というのが私の最初のリアクションだ。

とはいえ、おそらく誰でも知っている地名に違いなく、ここで知らんとは口が裂けても言えない。そこでこっそり調べてみた・・・なんだ、足羽川沿いか。

福井には足羽川という有名な川がある。桜並木が延々と続く美しい川だ。福井の三国湊は江戸から明治時代にかけて北前船の寄港地だった。この三国湊に入った物資は足羽川を渡り福井城下へ運搬されたが、その河畔である浜町は流通の要衝地として栄え、そこに料亭街が出来た。それが今の浜町だそうだ。

そうして友人が私を連れて行ってくれたのが、そのいにしえの料亭街にある明治23年、1890年創業の老舗料亭「開花亭」の別館、「開花亭sou・an」だった。この店では料理教室も開催しており、友人はその料理教室の生徒なのだ。しかし彼が私を誘ってくれた理由は別にある。私が歌舞伎ファンだからだ。

なぜここで突如歌舞伎が登場するのか不審に思われる方もいるだろう。実はこの「開花亭sou・an」、銀座に昨年再オープンした舞伎座を設計した建築家、隈 研吾氏が建築設計したというのだ。たまたま銀座歌舞伎座を先週訪れたばかりだった私は、まさか福井で歌舞伎座を設計した建築家の作品に出会えるとは夢にも思わず、狂喜乱舞したことは言うまでもない。本人自身建築家である友人の粋な計らいだった。

さて、その「開花亭sou・an」。ガラス箱のような四角形のモダンな建物を、木枠が全面覆っている。訪れたのが夜だったので薄暗く、遠目に見ると工事中にすら見える。しかし近付くと、木材の足場に見えたその枠が、実は緻密な麻の葉紋様、もしくはそれらしき古典紋様であることに気付く。そして、それだけでは無機質で人工的に見えてしまうであろう超近代的な建物が、木枠の存在により温もりを現出している・・・・建築家: 隈 研吾氏 本人の言によると、「三層の格子の重なりがつくる奥行きのある表情」を見せる建物、それが「開花亭sou・an」だ。百聞は一見に如かず、建物については写真をご覧頂きたい。

そして料理である。老舗料亭別館の日本料理、と聞けば純和風かと思いきや、何と呼ぶのだろう、創作日本料理とでも言うのだろうか。和の食材を使ってはいるが、ワインにも合い、若い人や外国人も堪能できるであろう爽やかな、しかし味わい深い料理だった。ちなみに優しい笑顔の料理長、畑地 久満氏は、2013年に開催された第4回日本料理コンペティション東海・北陸地区予選大会の優勝者である。そして、その名料理長が調理する料理を一品一品丁寧に説明してくれるのがソムリエの木嶋 祐平氏だ。そう、この「日本料理」レストラン、なんとソムリエがいるのだ。モダン建築に美味な創作日本料理、そして長身イケメンソムリエ・・・ちょっとここが福井とは思えない幻想空間である。道理で高級レストランであるにも拘らず若者客が多いわけだ。ちなみにこのレストラン、NHK Internationalの3日間に及ぶ和食特集番組にも出演したらしい。国外向け番組なので日本国内で放映されないのが残念だ。

ディナータイムはコース料理のみ、4種類で7,820円~12,000円/人。私たちは一番安い?! コースを頼み、美味しい日本酒とワインを堪能した結果、一人12,000円程度の料金だった。ランチタイムはもっと手頃な価格で楽しめ、4種類2,940円~6,000円/人だ。気軽に行くには少し高めの料金設定だが、料理・サービスの水準、歴史、建築物としての価値、等々を考慮すれば決して高くない。記念日や祝事に利用するにはもってこいのレストランだ。1階には広々したカウンター席とテーブル席、2階には各種個室がある。オープンキッチンなので名シェフの手さばきを堪能しながらカウンターで食べるのも乙だろう。完全予約制なので事前予約が必要だ。

本館料亭「開花亭」は2007年、国指定登録有形文化財に指定された老舗である。開花亭sou・anのすぐ隣にあり、座敷から足羽川沿いの桜並木が堪能できるという絶好のロケーションだ。2009年に福井で開催されたAPECエネルギー大臣会合の政府主催晩餐会場にまでなった老舗料亭と聞くと敷居は果てしなく高いが、是非一度桜の季節にこの本館も訪れてみたいものだ。

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