写真愛好家で、富士山の優美な姿を捉えたいと思うなら、冬場の撮影がお薦めだ。ここ鎌倉や逗子から見る冬の空は果てしなく澄みわたり、人生で二度とは訪れない素晴らしいシャッターチャンスに巡り合えるだろう。とはいえ、全ては運次第。天気の行方は神のみぞ知る、からだ。
鎌倉在住歴15年の私の、お気に入り富士山撮影スポットは、なんといっても材木座ビーチだ。鎌倉の海岸線は滑らかな馬蹄のような形で、海に向かって左端が材木座だ。鎌倉駅からは徒歩20分程度かかるが、お金に余裕があるなら駅の東口からタクシーに乗るのも良いだろう。運転手に「材・木・座・ビーチまで」と言うだけで、5分以内に到着できる。
ではなぜこの海岸が富士山撮影に最適なのか? それは地方色や彩りを添えるのに、前景には江ノ島、おまけにヨットやウィンドサーファー達まで写せるからだ。薄暮のたそがれ時に行くのがお薦めで、沈みかけた太陽の光が、空の風景を色とりどりに変化させて素晴らしい。しかしこれも運次第だ。赤、ピンク、紫色の一大スペクタクルが拝める時もあれば、どんよりした灰色の空しか見えないこともある。さまざまな雲の形が地平線の光景を変え、驚くほど面白い形や色相が見られる場合もあれば、富士山が完全に雲に隠れてしまうこともある。
材木座ビーチに着くと、海岸沿いに岩棚のようなフェンスがある。美しいサンセットを捉えようと、他にも人がいるはずだ。そこに登ろう。筆舌に尽くしがたいほどの美しい情景が、そこからは見える。富士山がそれほど近く見えるわけではないが、タイミングさえ良ければ、眼前に聳え立つ富士山のシルエットが空一杯に広がるだろう。カメラをズームインすれば、まるで富士山が目の前に立ちはだかっているかのようだ。
もう少し海岸を歩いていくと逗子マリーナがある。が、ここに行くにはまず道路に戻らねばならない。トンネルは通らない方がよい。海岸近くの住宅街に沿って歩こう。道すがら、ちょっと立ち止まって写真撮影するのも乙だ。
ずっといると寒くなってくるかもしれないが、だからといって早々に帰ると絶対後悔する。長くいればいるほど、富士山を映し出す空と光の微妙な変化を観察できるからだ。私など、他のカメラマンが帰ってしまった後15～20分ほど粘っただけで、どれほど素晴らしい写真が撮れたことか数えきれないほどだ。
日本、そして特に鎌倉は、写真愛好家の天国だ。目を見開いて注意してさえいれば、何百枚ものとてつもなく美しい日本土産の写真が撮れるはずだ。その写真はあなたの一生の宝になることだろう。
