日も暮れて、長浜の黒壁通りには雪が舞い始めた。立春も間近の淡雪なので、地面に落ちるやいなやあっと言う間に融けて消える。空には下弦の月が浮かんでいる。
幻想的な風景にふと立ち止まる。「お月様。ありがとう」と、にっこり笑顔で心でつぶやくと、うどん屋さんの前。茂美志屋(もみじや)だ。
雪降る夜道を歩いたから芯まで冷えた。
ちょうど好い。
うどんを食べよう。
長浜には「のっぺいうどん」という名物がある。
これはその昔、大阪のあんかけうどんと京都のしっぽくうどんを融合させてできたものだ。
一度廃れたが、この「茂美志屋」の店主がよみがえらせたという。
もちろん街興しとしての起爆剤的な狙いもあったことだろう。
今では観光客にすっかり知れ渡り長浜の名物の一つとなっている。
あんかけという料理法は、片栗粉でとろみをつけるのだが、このあんかけには2つの特長がある。
1つは、とろみのために熱の対流が起こりにくく、すなわち、料理が冷めにくい。
だから、厳冬期には、とてもありがたいもの。
2つめは、そのとろみが料理の具にからまりやすくなるため、舌が味をより強く感じ取れるという点だ。
ふろふき大根、おでん、などなど、少しあんかけにすると、かなり炊き込んだような深みを舌が感じるので、よく使う料理法である。
さて、今宵は「たまごあんかけ」うどんと「若鮎のあぶり焼き」をいただいた。
琵琶湖名産の若鮎、柔らかく甘い身が酒の肴に美味い。
真冬の鮎など長浜ならではである。
融雪装置の噴水に足元を濡らさないように駅まで戻る道すがら、空は雲が切れた夜空に北斗の星がひときわ明るくきらめいていた。
盆梅展とのっぺいうどんを訪ねて一年後にまたこの駅で降りよう。