一本の柳があなたを19世紀の世界に誘います (著作権:Erik O'Brien)

金沢芸妓の街 ひがし茶屋街

時空を超える場所 ひがし茶屋街

私が日本に惹かれるのは、歴史と伝統文化が往事のまま保存されているという点です。日本にはそうした地域が多くあり、金沢はその筆頭に挙げられるでしょう。

石川県の日本海沿いに位置する金沢は、蟹や良質の日本酒、そして歴史的な街として知られています。300年以上前田家が治め、兼六園と金沢城がその名残をとどめるとして有名です。

これらの歴史の証である場所はもちろん素晴らしいのですが、私にとっては「ひがし茶屋街」地区そのものが最も魅了される土地なのです。ここは金沢の花柳界の一つが残っており、私の心を強く捉えそして今も忘れがたいのです。

街に入ると、まず一本の見返り柳があなたを出迎え、そして19世紀の世界へと誘います。そこで目にする石畳の通りと格子造りの家並みに、誰もが感銘を受けるでしょう。かつて芸者置屋であったいくつかの建造物は、入場料を払えば見学することもできます。

その中でもし一カ所だけ選ぶとしたら、それはまちがいなくお茶屋「志摩」でしょう。500円の入館料を払えば、典型的な花街の世界を体感できます。国指定の重要文化財となっているこの建造物は、2階建てで3つもの階段があります。これは当時のお茶屋の典型的な特徴で、遊客が互いに顔を合わせるのを避けるためなのです。

各階に遊興のための3つの座敷があり、使われていた当時のままに保存されています。実際そこに暮らしていた芸者衆の貴重な楽器、美術品、宝石や装飾品も展示されています。お茶屋「志摩」には、日本家屋のほの暗さの中でなお圧倒する美が今も存在しているのです。

見学の締めくくりに500円を追加で払い、干菓子付きの抹茶を茶室で楽しむのもお勧めです。静かに流れる三味線音楽に浸っていると、在りし日のお茶屋志摩の世界にあなたも引き込まれていくでしょう。

ひがし茶屋街は、観光だけでなく宿泊にも適しています。宣伝もされず、多くの人がそばを通りながらも見過ごしがちな宿が「陽月」です。およそ200年前の置屋を若いカップルが民宿として経営しています。

客室は5つ、朝食付きの宿泊代は5000円ほど。現代的な設備(電話・テレビ・Wi-Fi)は無く、オーナーは英語は話さないものの丁重にもてなしてくれます。HPが無いので電話での予約(0081-076-252-0479)になります。

事前に予約する際は、ひがし茶屋街の通りを見下ろせる部屋がお勧めです。夜、部屋の窓辺に座っていると、お座敷へ急ぐ芸者衆の石畳に響く下駄の音が聞こえてきます。そんな空間にいると、まさに時空を超える気分に浸ってしまうでしょう。

宿のすぐ近くに1909年創業のレストラン東山があります。店に入ると今度は20世紀初頭の世界に迷い込んでしまいます。客はそこで昔のバーによくあったスツール又はちゃぶ台につくかを選びます。ここでもテレビ以外は文明の利器はありません。

このレストランは、主に地元客や少人数の若い人達のグループが家庭料理を楽しむ場です。ここでの私のお勧めは、人気の和食・カツカレー。本格的な味で生卵が載っているものです。食事メニューは800円から2,500円です。

このレストランは地元の人が多い店なので、店内に入る途端におそらく声をかけられて引き留められたり、好奇心から眺められたりすることもあるでしょう。「どちらの国?(から来たのか)」などと話かけられたら、止まって会話してみましょう。店のスタッフを含め、店内の人達の目があなたに集まるでしょうが、この巡り合わせを楽しんでください。金沢市民の方達は気軽な人が多いので、あなたもすぐにリラックスできるでしょう。

締めの一杯のビールとくつろいだ会話の後に店を出ると、私はいつもあの19世紀に誘う柳に会いに行きます。そしてそこでしばし立ち止まり、11月の凍えるような夜風に揺らぐ、長く下がった枝が月に照らされるのを眺めるのです。

すると私はどこかに迷い込んだ心地になり、そしてこの世界も人も共に時に流されていく感覚に圧倒されてしまうのです。この歴史のミステリーを享楽し、ただただその魔法に浸りきってしまうのです。金沢はまさに「魔法」です。金沢にまたいつの日か「帰る」のを私は心待ちにしています。あなたもぜひ金沢へ!

詳細情報

ひがし茶屋街についてもっと調べる

0
0
この記事は役に立ちましたか?
JapanTravel.com のサービス向上にご協力ください。
評価する

会話に参加する

Thank you for your support!

Your feedback has been sent.