手作りの木製人形「こけし」は、宮城県でもっとも魅力的な伝統工芸品の一つです。手足のないシンプルな胴体と丸い頭、そして数本の線だけで顔や髪の毛、衣装、アクセサリーまで表現しているこけしを初めて見る時は、どれもすべて同じに見えます。でもじっくり眺めてみると、一つ一つのこけしがそれぞれ別の表情を持っていることに気付きます。穏やかそうな表情を湛えたこけし、好奇心旺盛なこけし、満足げな表情のこけしと、その表情の多様さに魅了されるのです。深く考え込んでいるようなこけしもいれば、まるで昨日聞いたジョークを思い出して楽しそうに笑っているこけしもいるのです。
童話作家で熱心なこけし収集家でもある深沢要氏は「こけしは東北の人々のようだ」と言います。「すべてのこけしがそれぞれ、とてもユニークな個別の性格を持っています。こけしを製作した職人の性格を反映しているんですね。製作者の名前はこけしの底か背中に書いてありますよ。でも同じ職人でもその時の気分やお天気、その日のほかの状況によって、バラエティに富んだ、ひとつひとつまったく違う表情を持つこけしを作り上げるんです。こけし職人はよく自分の子供たちの顔をモデルにこけしを製作します。そして自分の子供たちに注ぐのと同じ愛情や気配りをもってこけしを作り上げるのです。だから一体一体のこけしが独特で、理想的なコレクターズアイテムになるんですね。」
こけし製作には長い時間がかかります。まず冬のあいだに、材料となる木材を入念に選定して切り出します。サクラ材を使うと濃い色のこけしになり、カエデ材を使えば伝統的なこけし色に仕上がります。材料の木は、こけしとして削られるシーズン前に、1年から5年のあいだ戸外で乾燥させます。その後こけしの顔と胴体に色付けをしてワックスを塗るのです。
こけし人形は江戸時代の後期、1804年から1830年の間に初めて製作されました。こけしが誕生したのは遠刈田温泉地区だと考えられています。温泉客たちが健康と幸運を呼ぶお守りとして、また単に子供向けのおもちゃとして、温泉土産に買って帰ったのです。最近ではスターウォーズのヨーダこけしや、水玉模様で有名な草間彌生が木の頭と胴体で表現したアーティスティックなこけしなど、モダンなこけしが数多くありますが、日本中で伝統的スタイルのこけしは11系統しかなく、宮城県はその中でも5系統 (鳴子系、遠刈田系、弥治郎系、作並系、肘折系) の産地であることを自慢にしています。これら5系統のスタイルは、異なる伝統や形の人形を製作する職人たちが数多く住む温泉地域で発展していきました。例えば鳴子こけしの胴体は中ほどが細く、菊花などが描かれていますが、遠刈田こけしは撫で肩で、長細い胴体を持っています。とはいえ系統にかかわらず、すべてのこけしに共通する特徴は、そのシンプルな形です。
1981年、宮城こけしは国の伝統的工芸品として指定を受けました。宮城県には日本に180名いる「こけし工人」のうち約100名が居住しています。こけし工人の一族はそれぞれ特徴のあるデザインやスタイルを代々守りながら継承しているので、彼らが創るこけしには、その一族の歴史や成し遂げた功績、そして地域のプライドが体現されているのです。こけしを持つことは、時を超えて語り継がれる歴史の一部となることなのです。
施設
宮城県内でこけしの展示や絵付け体験ができる施設の一覧です。
日本こけし館
住所:〒989-6827 宮城県大崎市鳴子温泉字尿前74-2
電話:0229-83-3600
ウェブサイト:http://www.kokesikan.com
1月1日から3月31日まで休館
見学・体験:可(有料)
みやぎ蔵王こけし館
住所:〒989-0916 宮城県蔵王町遠刈田温泉字新地西裏山36-135
電話:0224-34-2385
ウェブサイト:http://kokeshizao.com
年中無休
見学・体験:可(有料)
弥治郎こけし村
〒989-0200 宮城県白石市福岡八宮字弥治郎北72-1
電話:0224-26-3993
ウェブサイト:http://www.city.shiroishi.miyagi.jp/site/kanko/1481.html
休村日:毎週水曜日(祝祭日の場合は、翌平日)
見学:可(無料)
体験:可(有料)