京都 仁和寺の御室御殿

回廊巡りを楽しむ京の庭 3

仁和寺といえば、遅咲きの桜、御室桜(おむろざくら)を思い浮かべる方が多いだろうか。それとも「仁和寺なる法師・・・」で始まる徒然草のフレーズを思い出すだろうか。光孝天皇の勅願により造営が始まった仁和寺は、第七皇子の宇多天皇がその意志を受け継ぎ、888(仁和4)年に落成した。元来、天皇の祈願を行う御願寺であったが、譲位した宇多天皇が出家して仁和寺に入り、真言密教の修行に励んだことから、御室御所と呼ばれるようになったものである。御所のたたずまいは、その建築様式や庭の配置などに色濃く残っており、建物をつなぐ鍵型の回廊を歩けば、平安貴族の雅な世界にタイムスリップできるような気がする。

仁和寺の御室御殿は、異なる二つの庭を回廊で結んだ魅力的な庭園形式をとっている。貴族的な宸殿前の南庭(左近の桜、右近の橘、白砂の庭)と、寺院的な池泉式の北庭(池と滝、築山と石組)。どちらも気品があって美しい。

仁和寺はまた、庭造りの専門家である石立僧を多く輩出した。互いに切磋琢磨し合い、作庭の理論から設計、技術までの幅広い知識を持った石立僧は、やがて全国に散らばって日本庭園の普及に貢献した。

回遊順路

巨大な仁王門(京の三大門と言えば仁和寺と知恩院、南禅寺)をくぐって境内に踏み入ると、参道の遥か彼方に赤い中門が見える。金堂や観音堂、五重塔などの寺院建造物があるのは、中門の先の一画であり、有名な御室桜も中門を入って左手にある。一方、回廊巡りが楽しい御室御殿は、仁王門の左手にある小さな門の奥にある。

御室御殿の回廊は、四つの建物を鍵型につなぐ渡廊である。順路に従って行くと、まず白書院(接待所)と前庭の南庭、続いて宸殿(儀式を行う)、黒書院(生活空間)、霊明殿(薬師如来を安置する)に取り巻かれた北庭を巡ることになる。ここでは、回廊は単なる通路ではなく、部屋の延長線とも言える空間であり、様々な角度から庭を眺めることができるように設計されたようだ。立ち止まったり座ったりすることで、視線が垂直方向、または水平方向に移動すると、同じ庭のまったく違う表情を発見する喜びが味わえる。御室御殿では平安貴族になったつもりでしずしずと歩き、ゆっくりと過ごしてみていただきたい。

南庭と北庭

南庭は、御所・宸殿前の儀式の庭を継承したデザインで、さざ波状のシンプルな砂紋をつけた白砂の領域と、左近の桜・右近の橘が特徴的である。遠景の巨大な仁王門と技巧を凝らした勅使門は、まばらに配置された杉や松の木によって、その美しさを際立たせている。一方の北庭は、中央の池を中心に、築山と種々の石組、大小様々な植木が作る量感に富む庭だ。そして、そこに絶妙なバランスを与えているのが、遠景にそびえる五重塔である。

仁和寺が育んだ石立僧の中には、静意、林賢、静玄など、後に他の寺院で作庭に関わった僧もいる。静玄は、鎌倉時代の初期、幕府に招かれて永福寺(現存せず。ただし復元計画あり)の庭石を配置したという記録が吾妻鏡に見える。

このシリーズについて

王朝文化に華やいだ平安時代(794-1185)、中央貴族たちは寝殿造の屋敷に住み、季節ごとに変わる庭の美しさを楽しみました。当時の建物には壁がなく、外周は蔀戸や妻戸のみで仕切られていたため、それらの戸をすべて開放すれば、室内と外の自然とが、たちまち一体となりました。建物をつなぐ回廊は、細い柱で屋根を支えた廊下です。ここもまた、雨や雪にぬれることなく、外の景色を楽しむことができるという点で、内外が一体化した空間でした。残念ながら往時の貴族屋敷は残っていませんが、平安時代に創建された寺院の中には、その面影を見ることができます。

このシリーズでは、内であって外でもある回廊に焦点を当てて、京都のお寺を訪ねてみたいと思います。

1 永観堂(853年創建):上へ上へと伸びていく垂直回廊

2 大覚寺(876年創建):どこまでも続く迷宮回廊

3 仁和寺(888年創建):鍵型の回廊と2つの庭

4 青蓮院(1150年創建):コの字型の回廊と3つの庭

回廊巡りを楽しんだ後は、禅宗とともに発達した枯山水の庭園や、武家の庭である回遊式庭園を訪ねてみてはいかがでしょうか。京都の作庭家シリーズでは、名庭と作庭家についてご紹介しています。

詳細情報

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こんにちは!ここ仁和寺は亡き母の生家の直ぐ傍。幼少の頃祖父母に預けられた私はよく連れて来られ、山門の仁王の睥睨に恐怖して尻込みした事を懐かしく思い出します。徒然草、確かに今でも初めて訪れる処にはガイドさんが欲しいですね。
Tomoko Kamishima 執筆者 9年前
そうですか。幼い少年の心に、仁王の目力は強い記憶を残したのですね。

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