哲学の径(みち)

道すがら抹茶で一服~「叶匠寿庵」

南禅寺から銀閣寺までのおよそ2キロに琵琶湖疏水が延びる。

この疏水沿いの小径を「哲学の道」という。

戦中の動乱の時代に生きた哲学者、西田幾太郎はこの小路の散策をとりわけ好んだことからいつしかそう呼ばれるようになった。

路傍にある幾太郎の歌碑にはこう刻まれている。

「人は人 吾はわれ也 とにかくに 吾行く道を 吾は行くなり」

時代は政治にもまれ、人間の生き様は時代にもまれる。自分の生きる筋を強く持つということは、時代に棹さすことにもなるから、強い覚悟が必要だ。我が行く道を見出すこともまた難しい。

だが風はまだその懐に刺すような冷たい刃を隠し持っている。

そんな思いを歌碑から抱いて、寒風にかきまぜられる陽だまりをとぼとぼと進む。

散歩の間にすっかり冷えた手指をこすりながら私は、小橋を渡り茶店の暖簾をくぐった。

叶匠寿庵という。

百合根餡の和菓子と抹茶を注文する。

それは、季節の移ろいを感じさせるような見事な造りと味わいである。

二月の和菓子を問うたら、『ユリ根餡ときんつば』の、早春の彩りどす。」と、柔らかい京ことばが返ってきた。

穏やかで優しい菓子の甘さと茶の渋みが体の内の底にすとんと落ちてなごんだ密やかな一服だった。

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