ニッカウヰスキー余市蒸留所

北海のウイスキー職人

日本のウイスキーを初めて口にした時の記憶を、僕は永遠に忘れることができない。函館に滞在してすぐの頃、激安で購入した4リットル入りペットボトルのニッカブラックが、4人の男とその大切な彼女たちをぐでんぐでんに悪酔いさせてしまったのだ。

その日以来、しばらく日本のウイスキーに手を出すことはなかった。後にニセコへ越した際、その近郊の余市で“すごい”ウイスキーが造られていることを聞かされた。しかし、例の経験上、初めは話半分で聞いていた。よくある愛国的「食」感情によるもので、倶知安産のジャガイモが日本で一番おいしいだとか、函館で獲れるイカが一番みずみずしい、といった話しぐらいの感覚でしかなかった。

僕は何という勘違いをしていたんだ...

余市の駅で乗り換えの電車を逃してしまい、友人達と時間を持て余す羽目になった。駅の周辺をぶらぶら歩いていると、通りの向こうの少し先にウイスキー工場を見つけた。そこのツアーに参加してみることにした。

竹鶴政孝は、スコットランドでウイスキー造りの美学を学ぶため何年にもわたり旅をした後(当時は、このこと自体が大変なことであった)、 1920年にウイスキー工場を創設。本場の蒸留所から得た知識と、自身の教育の背景が化学であったことが融合し、後に竹鶴はウイスキーのブレンド術とスコットランド人の妻リタを引き連れて帰国した。北海道で初となった蒸留所に余市の地を選んだ理由は、スコットランドの蒸留所と地理的条件が似ていたためである。この蒸留所で造られるウイスキーは、1934年の創業以来、飛躍的な成長を成し遂げ、現在においては業界で最高級の質を誇るにまでに至った。2008年にはワールドベスト・シングルモルト賞を受賞。試飲の際に僕が気に入ったのは1987年ものの余市シングルモルト。ギフトショップで購入したその10年ものは、値段の割に非常に価値のある品であった。驚くほど複雑な味の中にほんのりと感じる桃のような香り。正直、これ以上の描写をする語彙力を僕は持ち合わせていない。今に至っては余市はシングルモルトだけでなく、ブレンド部門でも数々のメジャーな賞を難なく受賞してしまう、言わずと知れたブランドとなった。

蒸留所でのガイド付きツアーは無料だが、それを利用せずに自分で見て回るのもよい。現時点では英語でのガイドはない。もし日本語が解せるならば、竹鶴氏と彼の支持者が作りあげた歴史をより理解するためにも、ツアーに参加する価値は十分にありそうだ。

ツアーは無料の試飲で終了する。車での来館者には入り口でバッジが手渡され、ソフトドリンクしか提供されない。出口の側にあるショップに差し掛かった際(特に無料の試飲の後では)、どうしても購買意欲が沸いてしまう。言うまでもなく、僕はカチャカチャと音を立てるボトルが入った袋を手に下げ蒸留所を後にし、ご機嫌な足取りで駅まで向かった。購入した数種のうち、ウイスキーも然ることながら、驚くことに余市のアップルブランデーが僕の中ではヒット商品となった。ベンチに腰掛けて友人達と電車を待つ間に、当時、蒸留所創設と商品開発に向けて注がれた莫大な情熱に再び感銘を受けた。そして、ペットボトル入りの例の邪悪なウイスキーを忘却するために、僕たちは乾杯した。

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