江の島

神秘の島で過ごすスピリチュアルな一日

今年はヘビ年だ。そして、今、その燃える赤い目で僕を睨んでいるのは、江の島の岩屋洞窟の深い穴の中で瞑想している白ヘビの石像。

周囲4キロの小さな島、「江の島」は、藤沢市に位置し、ユネスコ世界遺産登録に推薦されたお隣の鎌倉ほど有名ブランド化されていないかもしれないけれど、独自の魅力を持つエレガントな場所だ。

僕が住む横浜からは東海道線と江ノ電で30分ほどで着く。でも僕は、この魅力あふれる神秘的なアイランドへはサイクリングで行くのが好きだ。ウォーキングなら3時間ほど。

観光シーズンの正月3日目の寒く風の強い日に、かつては修業の地であったミステリアスな島へサイクリングで再訪した。

川の女神であり、弁舌・学問の神でもある弁財天を祭るこの島のことを友達から聞いたのが江の島の魅力を発見するきっかけだった。友達は、「江の島では、断崖から、太平洋のむこうに浮かぶ富士山にどっぷりと沈む夕日を眺めながらビールを飲めるんだよ」と言った。ロマンチストの僕はそれを聞いてすぐに行く計画をたてたのだった。もう10年も前の話しだ。

それ以来、藤沢から島を結ぶ600メートルの橋を12回ほど往復しただろうか。藤沢からは江ノ電にゆっくりゆられながら行くのが好きだ。江の島までの細い路線は迷路のように街や家々の間を縫って走る。線路沿いの景色も美しい。私が江の島に惹かれ、何度も行きたくなる理由はいくつかある。

富士山に落ちる夕日の他にも私の興味の対象はどんどん広がっていった。そこに住む生き物たちに興味が湧いたのだ。まず、何と言っても、有名な江の島の猫。あんなにふとった猫は日本中見たことがない。まるで瞑想している仏様のようにまるまると肥えていて、横浜のデパートの販売員のように愛想が良く、女性ジャーナリストのように賢く創造性豊かだ。呼びかければニャーと応えるし、指示を出せば従順な生徒のように言うことを聞く。彼らなりのユニークなやり方で、人間との会話を成り立たせようとするのだ。

もう一つの楽しみは、トビ・ウォッチング。この黒い凧のようなトビは、島の上空を悠々と旋回しながら、レストランやお土産物屋さんで人間がこぼす食べ物を狙う。このハンターはまるでゲリラだ。目を離した隙に、瞬く間に手から饅頭・おせんべい・おにぎりなどをかっさらっていく。一度シャケのおにぎりをあげようとしたことがある。三角形のおにぎりをポストの上に置いてみた。トビをの至近距離から撮りたいと思ったのだ。しかし、ヤツラはあまりにも賢く、プライドが高い。恵んでもらったものなど食べようとしない。あくまでも「狩り」というゲームがしたいのだ。一瞬油断した隙に、光速で飛び込み食べ物を盗む!

夕方、彼らが日が落ちる空と広い広い海の間を何度も高く舞い上がり悠々と飛ぶ姿はとても美しく見るものを喜ばせる。富士の雄姿に見守られながら、低くゆっくりと島を旋回し、時にはトリックを披露する。インスピレーションを与えられる。気品をたたえ自由に飛ぶ姿を見るとトビになりたいとさえ思ってしまう。

さて、島を離れる前におなかを満たさなければならない。仏陀が言ったように、お腹が空いていては、煩悩に満たされてしまう。煩悩は人を迷わせ道をはずさせる。それでは困るので、島の最西端に突き出た崖に建つ安価な食堂でランチとする。今日のランチは新鮮なシラスがご飯にいっぱいのったシラス丼と江の島ビールだ。

温かくなり少しほろ酔い気分で歩き始め、崖を降りて岩屋の洞窟へと続く橋を渡る。新しくなった洞窟博物館のなかで、初めて弁財天を拝見する。若い人の多くは弁財天は愛の女神でもあると信じていて、たくさんの恋人たちが永遠の愛を誓いにやってくる。この多くの腕をもつ女神様からそんなに離れていない場所に石のヘビがスポットライトを浴びている。僕はトラ年生まれで、トラとヘビの相性はあまりよくないと聞いたことがある。でも、気を取り直して、弁財天様に家族が仲良くできますようにとささやいた。弁財天も洞窟の中で数多くの石のヘビたちと共存している。

5時過ぎに洞窟を出た。すでに黒い雲が空を覆っていたが、遠くの雲の割れ目から光がさしていた。だんだんと霞んでいく富士山の姿が美しい。伝説によれば、岩屋洞窟は秘密の道となって富士山へ続いているのだという。多分、海底に富士に続く秘密のトンネルがあって、祝福された旅人を聖なる山に導いているのかな、と僕は思ったのだった。

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