ポーラ美術館は、鈴木常司(1930-2000)のコレクション9500点余からなる油彩画を中心とした美術館である。鈴木常司はポーラ・オルビスグループ創始者の二代目で、油彩画の他、彫刻や陶磁器、硝子工芸、化粧道具など、その関心は多岐にわたった。だが彼が特に力を入れたのは、19世紀から20世紀の洋画家(モネ、セザンヌ、ルノワール、ピカソ、シャガールなど)の作品を、系統的に集めることだったという。
コレクションから
藤田嗣治の『誕生日』は、子供の誕生会の絵であるが、一見したかわいらしさに皮肉が込められている。着飾った11人の子供が丸テーブルを囲み、ケーキを待っている。窓の外には、顔を押し当てて、うらやましそうにそれを見ている6人の子供たちがいる。
岡田三郎助の『あやめの衣』は女性の後ろ姿を描いたものである。高く結い上げた髪、項から右肩まであらわになった白いやわ肌、そして青地にあやめを染め抜いた着物が、精彩を放つ。
クロード・モネの『睡蓮の池』はモネの睡蓮シリーズのひとつであるが、池にかかる太鼓橋は、広重の『亀戸天神境内』から着想を得て描いたものだと言われる。
パブロ・ピカソの『海辺の母子像』は、ピカソが20歳の時の、青の時代の貴重な作品である。子供を抱いた母が手にしている赤い花が印象的だ。この絵を手に入れた鈴木常司は、会社が困難な局面にある時、よくこの絵の前に立っていたそうだ。
蒐集家、鈴木常司
急逝した父の跡を継いでポーラの経営を担うようになったのは、鈴木が23歳の時であった。そして美術品蒐集を始めたのが、28歳。初めて購入した作品は、藤田嗣治の『誕生日』を含む2点だった。当初から計画的な蒐集プランがあったようで、画家の年譜に沿う、系統的な作品群が残されている。
美術館建築
美術館の建物は、ほとんどが地中に埋まっており、まるで森の腕に抱かれているかのようだ。美術館の周りに造られた木道を歩いてみると、その印象はさらに強くなる。だが地階にも関わらず、展示室以外の空間は、光のシャワーが注がれているように明るく、開放的である。建築家・安田幸一は、箱根の自然景観との調和、展示と保存を両立させる光ファイバー照明、太陽の動きに沿って光を取り入れるアトリウムなどを採用して、自然との一体化を目指したという。
なお近隣には、星の王子さまミュージアムやガラスの森美術館がある。