箱根大涌谷

足下に地球のパワーを感じる!

早雲山からロープウェイで大涌谷に向かうと、荒れた山肌の割れ目から、もくもくと白煙が上がっているのが見える。長い間草木も生えず、動物の侵入を拒んできた大涌谷は、かつて大地獄と呼ばれていた。その地獄に、1200年前、弘法大師空海が立ち寄り、一体の地蔵を刻んだという。

散策コース

ロープウェイを降りると、頂上の尖った冠ヶ岳が正面に見える。その山の中腹に噴煙地があり、幾筋もの白煙が立っている。右手の大涌谷観光センターの前を通り抜け、駐車場に沿って少し進むと、富士山の眺望が楽しめるビューポイントがある。標高1044mの大涌谷から眺める富士山は、思いのほか大きく感じる。クリアな視界を望むなら、午前中のなるべく早い時間帯がいい。大涌谷は、現在でも硫化硫黄などを含む火山ガスが発生しているため、心臓病や呼吸器疾患のある方は、大涌谷観光センターから噴煙地を眺めることをお勧めする。健康な方は、自然研究路(散策路)を歩いて、温泉池のある中腹まで行ってみてほしい。延命地蔵尊の祠を左手に見ながら、分かれ道を右に進む。10分ほどで玉子茶屋と温泉池のある、噴煙地近傍に着く。

名物黒たまご

硫黄臭の漂う散策路を登っていくと、白濁した温泉池の周りに小さな人垣ができている。5個で500円の黒たまごを買い求めた人たちが、店の前でホクホクのたまごを頬張っているのである。黒たまごは、その名の通り黒い。と言っても、卵の殻だけである。殻を剥くと、通常のたまごと同様、白いつややかなゆでたまごが現れる。地獄の釜で茹でた、できたてをいただく。美味しくて、一つや二つはぺろりとお腹におさまってしまう。

黒たまごはどうして黒いのだろうか。まず80度の温泉池でたまごを60分茹でる。この間に鉄分が殻に付着し、そこに硫化水素が反応して硫化鉄の黒い色になる。温泉池から引き上げたたまごを100度の蒸気で15分蒸すと、黒たまごのできあがりである。

この黒たまごを、一つ食べると7年寿命が延びるという。5個で35年の命が、たった500円ということになる。ありがたい地獄の大特価である。

延命地蔵尊

小さな祠に、全部で六体のお地蔵様がお祀りされている。寒い季節、それぞれのお地蔵様に、温かそうな肩掛けが掛けられていた。祠の右手前に、神泉の湯がある。手を浄める泉であるが、その脇にもう一体お地蔵様がいて、温泉の湯をかけながら願い事をするのだそうだ。神泉の湯はちょうどよい湯加減であった。

今も地球内部では、至る所で激しい地殻変動が起きている。そのエネルギーのほんの一部が、大涌谷の大地の割れ目から地表に吐き出されているにすぎない。空海はこの地を憂えて、救いをもたらすよう地蔵を刻んだが、現代の我々は、黒たまごで寿命を延ばし、足下から地球のパワーをもらって、元気になって大涌谷を後にしたい。

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