標高1357mの駒ヶ岳山頂に着くと、雪をかぶった富士山がその勇姿を現した。全長1800mのロープウェーに乗り、芦ノ湖東岸から山頂まで7分の空中散歩の後、ロープウェーを降りて振り返る。芦ノ湖は眼下に、左手には相模湾と小田原市街、湖の先に三島市や天城山、駿河湾までも見渡すことができた。
駒ヶ岳の誕生
今から40万年前、幾度となく噴火を繰り返した箱根火山は、次第に空洞化し、18万年前には中心部が陥没してカルデラが生じた。このカルデラに水がたまって巨大な湖ができ、一部が現在の芦ノ湖として残ったと言われる。その後、4万年前に再び火山活動が活発化し、複数の溶岩ドームが形成された。駒ヶ岳はその一つである。やがて3000年前に、山体の多くを破壊する水蒸気爆発が起きて大涌谷が生まれ、噴出した土石流によって仙石原ができたと考えられている。
箱根神社元宮(はこねじんじゃもとつみや)
古来、駒ヶ岳の山頂では、北に箱根連山の最高峰である神山(かみやま)を拝し、古代祭祀が営まれてきた。757年(天平宝字元年)、万巻上人が霊夢をうけて箱根三所権現を奉り、芦ノ湖畔に里宮である箱根神社を造営した。その後は長く、修験者が練行をする霊場であったが、1964(昭和39)年、西武グループの創業者、堤康次郎の寄進により山頂に元宮が建てられた。神社の奥には岩垣に囲まれた斎場があり、毎年10月24日に御神火祭が行われる。
駒ヶ岳ロープウェー
ロープウェー乗場は、プリンスホテルの経営するアミューズメント施設、箱根園の中にある。始発は午前9時10分で、10-20分ごとに運行されている。運賃は往復で大人1050円、小人530円である。なお、割引周遊券やフリーパスなどを持っていると割引になる場合がある。
駒ヶ岳山頂
ロープウェーを降りたら、まずは芦ノ湖側の展望を満喫していただきたい。雲間から光が射すと、湖面にさざ波が立っているのが見える。青い空と山並みを眺めながら深呼吸をすれば、体の隅々まで新鮮な空気が届くのを感じるだろう。なお、ここから箱根連山の最高峰・神山を経て、蒸気の吹き出す大涌谷まで、山上のハイキングコースが整備されている。駒ヶ岳から神山まで約一時間、神山から大涌谷の噴煙地までは、50分程度の行程である。
次は元宮に向かおう。赤い鳥居を目指して直進すると、歩いて10分ほどである。下草で覆われた山肌に歩道が整備されている。道はループ状になっているので、遠回りして相模湾や小田原の町並みを遠望するのも楽しみの一つだ。神社のやや左には富士山の頭が見える。その手前を縁取る箱根連山も美しい。
元宮の階段脇には注連縄を張った岩がある。馬降石という名前がついている。岩の上には丸い穴がいくつかあいており、白馬に乗った神が、この岩に降りた時にできた馬の蹄の跡であると伝えられている。
元宮にお参りした後は、神社の裏手にある古代祭祀遺跡へ行ってみよう。ここからの富士山の眺めは最高である。古代の人々も、この場所で富士山に崇敬の念を抱きながら祭祀を行っていたのかもしれない。
駒ヶ岳と芦ノ湖の標高差は660mである。したがって山頂の気温は、湖畔に比べ6-7度低いことになる。冬の早朝は最も視界がよく、富士山の全容を見ることができる絶好のチャンスだが、耳が痛くなるほどの寒さは覚悟していただきますように。