京都南禅寺そばの「瓢亭(ひょうてい)」で新年正月のおせち料理をいただく、なんていうのは最高に贅沢で嬉しい慶事だろう。
「瓢亭」といえば、知る人ぞ知るミシュラン3つ星の老舗料亭である。朝粥がつとに名を知られている。
「なんや、おかゆかいな!」
とぼやくなかれ。瓢亭の供するお粥はひと味も二味も違う。
南禅寺界隈は花街祇園からそう遠くない。八坂神社裏手から円山公園を知恩院へと抜けたらもうすぐだ。その昔、祇園で夜通し遊び呆けた旦那が芸妓を連れて瓢亭までやって来た。もう東山の稜線はうっすらと明るい。
「お~い、おやじ~、あんたいつまで寝とんのや。もう朝やで。腹あ減ったがなあ。なんか作ってくんなはれ。」
と玄関の木戸をどんどん叩きながら若旦那。隣では芸妓がくすくす笑っている。
間もなく、木戸の閂を外す音が聞こえ戸が開くと、
「ああ、なんや、あんたかいな。こんな朝のはよからかなわんわ。しょうがおへんな。有り合わせでよろしおすか?」
そういって昨夜の残りの冷や飯をお粥にして出したのが始まりだそうな。
さて。
私の前には、正月だけにめでたいおせちも漆盆を賑わしている。黒豆、田作り、栗、数の子。これがないと日本の正月は始まらない。それにしても料亭の料理の味わいの深さには唸ってしまう。
お粥をすすりながら祇園で遊び惚ける旦那と美しい芸妓を想ったら、何やら胸が熱くなってきた。
こいつぁ、老舗瓢亭に申し訳ない。
そやかてなあ、こんな美味しい朝粥やさかいな。空想もたくましゅうな。瓢亭はん、ほんま、かんにんやで。