烏丸通から六角通りを東に進み、寺町通りを南に折れるとまもなく祇園の花街だ。
与謝野晶子が、
「春よ春、
街に来ている春よ春、
横顔さえもなぜ見せぬ」
と詠ったとおりに、京の二月はまだ冬の中である。
その風は私の頬を冷たく切ってゆく。
それでも春が来ていることを確かめたくて、祇園のとあるお店の暖簾をくぐった。
「OKU gallery & cafe」。
京北にあるあの美山荘が演出するモダン和風のカフェレストランである。
店はバル/バール、つまり和のバーをコンセプトにしている。
それでも、美山荘の演出となれば、私としては違うニュアンスを受け取った。
つまりは、季節折々の野草を活けた茶室のように、供される料理に京都の季節を観、楽しむ場である。
美山荘と言えば、野生の旬を摘み入れた季節折々の料理が多くの人の支持を得て、予約を取るのが大変困難な素晴らしいオーベルジュだ。
それを京の街中で体験できるとあって、この「OKU」は地元の人たちにも人気が高い。
膳懐石のように、小さな器に盛られた食材。
シンプルなようでいて、とても吟味されている。
お茶は一保堂の「京番茶」。
備長炭から作られる炭オイルで風味付けされた一品「山ふきとカリフラワーと筍とワカサギの南蛮和え」に早春を噛み締める。
冬を極める2月でも光は春の勢いだ。
ガラス窓越しに坪庭の楓の木を見やると、陽光を浴びて蕾の茶色の皮がぎゅるっと艶を放った。
季節の移ろいに揺られながら私たちは歩んで行く。
そんな日々、こんなにもさりげなくその移ろいのあでやかさを感じさせてくれる料理を食することができる幸運を、私は思う。
山が木の芽を吹き上げる5月になったら、大悲山を訪ねてみたいものだ。