JR福井駅前に立つ「ユアーズホテルフクイ」は福井随一の品格あるホテルである。
ホテルの品格というのはひとつの文化とも言えようか。
木賃宿のように夜露をしのぐ宿とは対極にある。
これまで、人との交流の場として、またそれに華を添える料理文化を、品格あるホテルは常に提供してきた。
福井市は人口が少ないこともあり、また江戸時代から藩財政が決して豊かではなかったこともあり大きな地場産業が生まれてこなかった土地柄だ。
明治以降も繊維や鯖江を中心とした眼鏡等の軽工業が産業の中心で、それを多くの中小企業が支えている産業構造を持つ。
経済の貧富は如実にその文化の質にも量にも反映されるから、ある意味では福井はこれまで本当に歯がゆい状況にあり続けて来た。
文化というのは貧しいところに芽吹きにくい性質の花なのだ。
モノが分かり造詣が深まってこだわりが生まれる。心と財布のゆとりが生まれて、文化なのである。
だから文化人がホテルに集まってくる。
そういうホテルは由緒あるクラシックさを感じさせてくれるところが多い。
ユアーズホテルフクイもそのようなカテゴリーに入るホテルである。
ホテルとしては駅周辺に新しいビジネスホテルがいくつも開業したので、部屋そのものの真新しさ・快適さという点では「ユアーズホテルフクイ」は辛い点をお客様から付けられることもいたし方ないだろう。
だがホテルというのはそれだけではないと思うのだ。
衛生管理はもちろん最重要だが、カーペットに髪の毛を1本見つけてそれを糾弾するようなクレイマーはホテルに宿泊すべきではないというのが私見である。
なぜなら、ホテルに泊まる悦びや楽しさの深い部分をそういう方々はお持ちではないからだ。
常に不満と怒りの種火を胸の内に宿しながら旅行をしていては、自分の気に入らないツボに触れたときそれをもって被害者意識の爆弾が炸裂するからである。
これでは旅行どころか人生そのものだって楽しめないだろう。
ホテルスタッフは心をこめた対応(ホスピタリティ)を常に心がけている。あるいはそうしようとしている。
ならば、人と人の触れ合いの人生であろう。
客も人として、「嬉しい気持ちにさせてくれてありがとう。」の気持ちを持ちながらでなければ、品格あるホテルのドアをくぐる資格はない。
ユアーズホテルフクイはここ数十年にわたる福井の発展の歴史とともにあった。
秀逸なのは帝国ホテルの村上シェフ(故人)門下の素晴らしい料理人をユアーズホテルフクイが福井へ招聘したことである。
現在はフランス料理店「ジャルダン」(福井市文京)の総料理長を務める黒味氏(2010年、「現代の名工」、また2013年叙勲旭日双光章受賞)もその輝かしい福井時代をユアーズホテルフクイの料理人から開始した。
客室70ほどの決して大きくはないホテルであるが、このホテルでブライダルパーティーやセレモニーを開くことは福井市民にとってある種のクラスとされている。
そのような品格はホテルスタッフだけが育むものではない。
利用する客である我々もその責任と楽しみとを持っているのである。