フランスやイタリアを旅した人なら、彼の地で食したチーズの美味しさが懐かしくてたまらないことだろう。
パリの横丁に入ると何処からかしかチーズの芳香が漂ってきてその匂いにおびき寄せられるように歩いてゆくと、フロマジュリー(フランス語で、チーズショップの意)があったりする。
そこでのチーズの品揃えは絶句するほどに圧巻だ。
フランスには全土に数万という小さな村が点在するが、その村一つひとつに独特の個性的なチーズがあると言われている。
生産量が当然限られているから、航空便に乗ってまで日本に運ばれ私達の口に入ることはまずない。
しかし、バイヤーが発掘すると、パリ辺りのフロマジュリーには十分に並んでいることがある。
だから、普通の規模のフロマジュリーでもチーズの種類は200を下らない。
それが次から次へと買われていくのである。
夕暮れ時ともなれば、帰宅途中のサラリーマンやOLたちがフロマジュリーの店先に行儀よく並んでいる。
日本のチーズショップと決定的に異なるのは、その場で好きな分量を切り売りしていることだ。
晩御飯のデザートでワインのあてにたとえば5種類のチーズを、それぞれ50グラムずつ買う。
切りたてだから、風味が断然違って美味しい。
皆がそういう買い方をするから、商品の回転もいい。
いわゆる好循環なのである。
さすが、チーズの本場だ。
日本ではそういう状況は望むべくもないが、せめて品数だけは何とかならないかとかねてより思っていた。
それが昨今はチーズを食べる人が増えてきたのだろうか、福井にもフレッシュチーズを並べる店が現れた。
JR福井駅前にある老舗「西武デパート」のチーズショップである。
ショップというとおおげさで、デパートの地下1階にチーズの冷蔵ショーケースがあるだけなのだが、これだけでも随分とした進歩だと思う。
人口の少ない福井にあって、嗜好品であるチーズの商品回転はビジネスとしてはリスクもあるからだ。
買いやすい100g単位の小さなポーションに切られフィルムに包まれている。
日本では賞味期限という法律がある。
だからカットされフィルムに包装された段階から1ヶ月のストップウォッチが動き始め、30日後には廃棄されてしまう。
フランスではチーズに関してこのような意味不明な法律はない。
逆に、白かびチーズやヤギチーズ、ウォッシュチーズなどは数ヶ月熟成させ、色も茶色に、匂いもかなり濃厚になった頃を食べ頃として売る。
西武デパートにこれは望めないので、自宅で熟成させるチーズファンもいると聞いた。
ともあれ、例えば、ミモレットの18ヶ月、24ヶ月熟成もあり、モンドールも季節になると置かれているこのチーズ売り場は、チーズファンにはとても魅力的なスポットであるに違いない。