福井・舟橋「左義長」

新春の歳時記

 左義長(さぎちょう)は江戸時代から続く、春を告げる歳時記である。

どんど、どんど焼き、とんど(歳徳)焼きなどとも言われる。

歳も明け、全国あちこちから届く野焼きや野火のニュースを聞くと、いよいよ春だなと、何だか心がわくわくしてくる。

厳しい北陸の冬に耐えるからこそ春の訪れを待ちわびる思いにはひとしおのものがあるのだ。 

新正月明けの15日、または旧正月明けの2月15日の朝、わらでこしらえた山にその正月に飾った門松や注連(しめ)飾り、あるいは書き初めで書いた物を皆が持ち寄りそれらを焼く。

門松や注連飾りによって出迎えた歳神を、それらを焼くことによって炎と共に見送る。

そしてその火で焼いた餅や団子を食べる。

焼いた後の灰を持ち帰り自宅の周囲にまいたり、その灰を顔に塗ったりして、向こう1年の無事と無病息災を祈るのである。

 この左義長は、道祖神の祭りとして日本全国の主に農村地帯で継承されてきた。

 福井市の九頭竜川沿いにある舟橋という町に伝わる「左義長」も、この地区が大きな農村であったことから伝承されてきたものだ。

地区内に在る「黒龍(くろたつ)神社」の境内がその左義長の舞台である。

九頭竜川という名称はその名の通り、かつて度重なる氾濫によって川の流れが九匹の龍のように農地の上を暴れ回った、そのすさまじさから来ているという。

その氾濫に苦しめられてきた農民たちが、九頭竜川に住むという黒竜の神を鎮めるために黒龍神社の本殿前で、巨大などんど焼きを奉納する行事を江戸時代から伝えてきた。

福井県内で「左義長」祭りと言えば「勝山左義長」が有名だが、ここ舟橋の地元の人たちにはそのわら山の大きさが自慢である。

直径7メートル、高さ13メートル。

使用するわらの量は、1、2ヘクタールの水田から刈り集められる。

福井・石川・富山の北陸3県で最大のどんど焼きだと、地元の老人が自慢げに話す。 地域の子供たちの書いた習字やら、その前年に祝儀があった家からの飾りが高く掲げられる。

 黒龍神社の左義長が終わると福井の冬はようやく温み始める。

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