弘前 石場旅館

サムライ気分で古都に泊まろう!

弘前での宿泊に、石場旅館ほど最適な宿を見つけられる可能性はまれだ。この旅館は文字通り、弘前公園と弘前城の角を曲がってすぐという絶好のロケーションにある。家族経営のこの旅館の歴史は古く、創業はなんと1879年。豊潤な歴史が醸し出す独特の雰囲気を持つこの旅館だが、その割に価格は驚くほど良心的だ。

通りから見ると、気取らない外観のこの旅館はほとんど目立つことがない。しかし、ひとたび中に足を踏み入れると、まるでいにしえの時にタイムスリップしたかのような錯覚に襲われる。宿に着くと、経営者の祖母と思しき高齢の女性が、ということはかつてのこの宿の女主人なのだが、部屋まで案内してくれた。彼女は私が日本語がてんで分からないことなどお構いなく、のべつまくなしに喋り続ける。ふしだらけの木で出来た橋まで私を連れて行き、その後は天井の低い廊下が迷路のように続く。床は歩くたびぎしぎしと満足げな軋り音をあげ、木の羽目板製の壁にはたくさんの写真や小物が飾られている。

通された部屋はとても心地良く、まるで絵本に出てくるような日本の伝統的部屋だ。テーブルの上には漆塗りのティーセットが置かれ、足元は涼やかな畳敷き、床の間には掛け軸とドライフラワーが美しく飾られている。衝立で仕切られた濡れ縁には小さな机と椅子があり、腰かけたままで庭を眺められる。夕食から戻ると、石場旅館のお祖母ちゃんが敷いてくれた布団が私を待っている。部屋は道路から離れているので車の騒音にも邪魔されず、ぐっすり眠ることが出来た。

有難いことにシャワーなしの部屋からシャワー付きの部屋へ無料アップグレードしてもらったのだが、自分の部屋でシャワーを浴びる代わりに共同浴場へ行くことにした。広々とした空間で身体を洗い、ゆっくり手足を伸ばして湯に浸かれるからだ。現在の宿の主人は4代目に当たるが、流ちょうに英語を喋り、いろんなアドバイスをしてくれた。チェックアウト後には、わざわざ車で駅まで送ってくれ、道中市内観光までしてくれるという親切さだ。

自分の部屋で食事をとることもできるが、カフェやレストラン、バー等が徒歩圏内にはたくさんあるし、コンビニも歩いて数分の距離だ。ちなみにこの旅館は、弘前城や弘前公園、総合観光案内所、美しい藤田記念庭園、歴史的建造物が再現された地区など、主要観光スポットのすぐそばにある。

宿泊費には旅館の隣にある会員制バーのウェルカム・ドリンク料金が含まれている。このバーだが、これほど旅館の雰囲気と正反対な場所も他にないだろう。煙草の煙が漂う店内は小さく、薄暗い。壁はマリリン・モンローのポスターで埋め尽くされ、アンディー・ウォーホールのポスターも飾られている。経営者は大層なモンロー、ウォーホールファンに違いない。キャンベルのスープ缶が上部の棚にぎっしり並び、ドリンクの種類はウィスキーと日本製の蒸留酒だけだ。私は日本酒を注文したが、気前の良い日本式伝統スタイルで出してくれた。いわゆる、グラスになみなみと注がれた酒が外側の升に溢れ出ているスタイルだ。

最後に、この旅館を端的に要約するなら、伝統的日本スタイル、現代人も満足できる快適さ、そして日本流の「おもてなし」、これに尽きるだろう。

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