何年か前職場の同僚に、変な時間帯の営業で、宇都宮繁華街の分かりにくい場所にある地方自治体経営の酒バーに行く、と告げられた。日本酒しか出さない店なんて初耳で、ましてやそれが役人経営だなどと言うから驚いたものだ。どうやらその店は月曜から金曜まで1日2時間しか営業していないらしい。好奇心を大いに掻き立てられた私は、結局自分の結婚記念日に主人と共に訪ねてみることにした。たまたま主人はその日仕事が休みで、その上大の飲み会好きなのだから、これ以上格好の記念日祝賀場所はないのである。3歳の子供連れだったが、バーの営業時間は17時から19時で、ちょっとお酒を楽しんでから家に戻って夕食を摂り、お風呂に入っても21時には悠々寝られるわけだ。
バーを訪ねると私たちが最初の客で、これは幸いだった。行くのが10分遅ければ席に座れなかったに違いない。座席は背の高いストゥールタイプで巨大な木製テーブルの周りに並んでいる。席に座らず立ち飲みする客もいる。ビジネススーツ姿の男性がチラホラいるかたわら、デート中とおぼしき男女もいる。店内は明るく、煙草の煙が充満することもない(店内禁煙だ)。
このバー、名を「酒々楽(ささら)」といい、最初の漢字の意味は「酒(さけ)」だ。注意して探さないと見逃してしまう。東武線宇都宮駅から徒歩7分、もしくはJR宇都宮駅西口からバスで3分だ。最寄りのバス停は大通りに面した「県庁前」だ。バスを降り交差点に立つと「クアトロ」という大きな美容院が見え、通りの向こう側にはサンクスがある。バーは八幡山公園通り沿いにあり、この通りは県庁がある並木道と平行に走っているJR駅寄りの道だ。
・・・そして店内に入り、席を確保し、カウンターに向かった。カウンターの両端にはガラス製の冷蔵庫が置かれ、中には栃木県内40の酒造会社で造られた約120種類もの日本酒が並んでいる。一体こんなもの、どうやって選ぶというのだ? 日本酒好きとはいえ詳しいことは全く分からないのに。テーブルに置いてあるパンフレットには講釈が書かれているが、日本語が読めない私には無用の長物だ。パンフレットの地図にはどの酒がどの地域で醸造されたかも書いてある。しかしそれも役には立たない。
酒の各ボトルにはカラータグが吊るしてあり、価値や等級が書かれている。1000円払うと10枚綴りのチケットを渡される。1枚が酒1杯分だ。最上級の酒は一番小さなグラスに注がれて出てくる(15ml)。逆に最下級の酒は一番大きいグラスだ(75ml)。客は5等級の酒から選ぶことが出来る。私たち夫婦は10枚のチケットを半分に分け、私はまずピンクのラベルのボトルから試してみた。ピンクだから女性用の甘い酒だろうと勝手に推測したのだ。勘は大いに当たった。最終的に私が飲んだのはフルーツ味の酒(いちご、ゆず、シトラスフルーツ)などだ。酒のつまみにナッツや塩味のスナックも注文した。
この「酒々楽(ささら)」、いろんな酒を試し飲みしてみたい人にはお薦めだ。日本語が読めない人でも心配無用、私がしたように適当に頼んでも十分楽しめる。