石川県加賀市の片山津温泉近くの丘の上に、なかなかのコーヒーショップがある。
「可非工房」。
いかにもまじめ一色線、という感じのマスターはいつもグリーンのエプロンをして豆を挽いている。
真摯という形容がぴったりの方である。
コーヒーの旨さ追求のためにひたすら研鑽するコーヒー伝道師だ。
ここのメニューにはRA認証という耳慣れない言葉が添えられている。
RA認証とは、レインフォレスト・アライアンス(Rain Forest Alliance)、つまり「熱帯森林同盟」(本部:ニューヨーク)のことである。
国際的NGOで非営利環境保護団体。
農薬の規制、野生動物、農場やその周辺での生物保護に関して規定が定められており、その規定に沿って栽培されたコーヒーのみ、その認証を受けられるのだそうだ。
コーヒー栽培は、現在、その豆の名前にある発展途上国(たとえば、コロンビア、グアテマラ、ケニア、エチオピア、スマトラ、パプアニューギニアなどなど)が深刻な問題を抱える産業なのである。
コーヒー豆の価格は先物市場の動向が強く影響する農産物だ。
しかも、豆の農場渡し価格は驚くほど安い。
それも、先物価格の相場、自然気象のダブルパンチで振り回される。
そのあげくコーヒーでは生活ができないので、コカの栽培に走ってしまうのだ。
コカ。そう!コカインである。
貧困のネガティブ・スパイラル。
その連鎖を断ち切り、コーヒーで十分生活ができるようにするために、コーヒー農家から安定的に適切な価格でコーヒー豆を買い取る。
そうして彼らの収入を安定させ、なおかつ、マーケットが心から受け入れてもらえるように栽培方法について注意を払う。
コーヒーの品質を上げていく。コーヒーは農産物だ。
つまりは、植物という生き物を扱う産業だ。
だから、農薬を安易に使うと、そのコーヒー畑や周囲で生きている昆虫、動植物などの生態系をこわし、それがそのコーヒー園と地域の環境に跳ね返ってくる。
そういう、総合的な配慮を生産者も払い、それを購入者も理解したうえで支援しながら、おいしいコーヒーを味わう。
21世紀。時代はここまできている。
たかが嗜好品のコーヒー。
いや、されどコーヒー。
素晴らしい1杯のコーヒーがあってこそ、私の一日は始まるのだから。