京都という土地は東北西の三方を山に囲まれている扇状地である。
扇状地という地形はその地下に豊かな伏流水・地下水脈を抱いているが、京都もその例外ではない。
北部の山間に源流を持つ高野川と賀茂川はやがて合流し鴨川となって市街を貫き南に下ってゆく。
しかし京都が他の扇状地と違う際立った特徴は、この二つの川が流れる地下に網目のような地下水脈が広がっていることだ。
京都はまさしくその豊富な地下水脈の上に浮かぶ水上都市なのである。豊かな水資源に支えられて栄えた古代ローマと同じく、京都という都市が千年を超えて日本の都として栄えた理由も実はそこにあると指摘する専門家もいる。
京都市内には数百ともいわれる井戸がある。それぞれの井戸で水の味が違うという。それは地下何十メートルの深さにわたって重なるさまざまな岩石や粘土の地層の種類が場所ごとに異なるためだ。
砂利層、粘土層、石灰層、火山岩層、堆積岩層。それらの層はあるところでは薄いパイ生地のように、あるところでは分厚く折り重なる。そこへ雨水が染みこんでゆく。
裏千家家元では敷地に掘られた三十もの井戸ですべて水の味が異なるという。迎える客人によってその井戸水を使い分けるというのである。
こういう茶の文化が育まれた土地柄だからこそ、イノダコーヒに代表されるコーヒー文化が生まれたのだろう。
さて、地下鉄四条駅で降り堺町通を上がっていくと目指す店はすぐに視界に飛び込んできた。
イノダコーヒ本店。コーヒーではなくコーヒと書き表すところにこだわりが見て取れる。
京都でカフェを新規開店するオーナーの中に、このイノダコーヒで修業した人たちが少なくないことを聞いた。
コーヒー管理とコーヒーショップ経営のあらゆるノウハウを教わり、それにさらにそれぞれのオーナー自身の熱い思いを注ぐ。
そんな素敵なコーヒーショップが京都のあちらこちらにあるのだ。
清水支店ですでにイノダコーヒの美味しさは体験済みだったが、あらためてこの「本店」の醸し出す優雅さを垣間見た思いだった。
イノダコーヒの人気の一杯、「アラビアの真珠」。モカ特有の酸味を他の数種類の豆が支え、バランスをとり、活かしている。
鼻腔にまで立ち上り広がる柔らかく深いアロマに私は酔いしれた。