和食が世界文化遺産に近々登録申請されるそうだ。
和食といえば実に幅が広い。
旅館の朝食にある味噌汁、漬物、焼いた干物、梅干し。
典型的な和食である。
筑前煮、昆布巻き、鰤(ぶり)照り焼き、粕汁といったお袋の味も正真正銘の和食だ。
そのような普段の食卓を賑わわせる和食の頂点に立つのは、やはり、懐石料理であろう。
美しくめりはりのある日本の四季を反映する食材を、それぞれの持ち味を活かし、て吟味され研ぎ澄まされた技術によって調理された懐石料理。
全国にある多様な懐石料理は、その原点を京料理に持つ。
京料理の特長は、端的に言うなら「繊細」と「風雅」だろうか。
精緻に造営された京庭園の花鳥風月が皿に椀に表れている。
かと思えば、大原や北山辺りの野辺ののびやかさが味わいの奥に広がり遊んでいたりもする。
そしてそれら食材の持つ繊細な味を最大限に活かすために、昆布と鰹節による薄味の出汁が料理を支える。
それでいてその出汁も黒子として姿を消すのではなく、十二分に個性を主張もする。
その京料理に欠かせないのは京野菜だ。
聖護院かぶ・だいこん、賀茂なす、伏見とうがらし、万願寺とうがらし、九条ねぎ、堀川ごぼう、すぐき菜。
全国にその名が知れ渡った京都名産の素晴らしい野菜である。
さらに、京の字を冠した、京みょうが、京たけのこ、京ぜり。
ここにも京都人の誇りが見てとれる。
京野菜を育む京都府下の土壌はおおむね粘土質である。
粘土質は砂壌土とは対照的に野菜の肉質を締め香りを高める特質に優れているため、優れた京野菜が数多く伝承されてきた。
さらに京都の地理的特質として挙げられるのが海岸線から京都洛中までの遠距離である。
古より海産物を京都洛中に運搬する場合、そのままでは腐敗してしまうために手数を加える必要があった。
海産物を塩干物・漬物へと加工する技術が京料理にも傑出した調理の技として注がれているのである。
その京料理を供する料亭の一つに「和久傳(わくでん)」という店がある。
「高台寺和久傳」はその店舗網のフラッグシップ店だ。
侘び寂びの風雅が薫る「高台寺和久傳」はしかしながら特別の人たちの世界である。
もちろんそれはそれでいいのだが、食文化の中庸化・平均化のグローバルなうねりのエネルギーを「和久傳」とて軽んじることはできないと視たのだろうか。
和久傳は、JR京都駅ビルの「JR京都伊勢丹」の11階に支店「京都和久傳」を開いた。
京都市街が一望できるカウンター席とテーブル席。
狙いは的中し、高台寺和久傳の味が気軽に食べられるとあってものすごい人気だ。
運が良ければ、カウンター席に座れる。
お昼メニューで一番安い\5,000-のコースを戴いた。
一皿ひとさらは少量だが、7品目を戴き終える頃には満腹。
生の青竹筒に入った清酒「和久傳」の味の柔らかさが実に楽しい。
量がもっと行ける人なら¥8,000-、¥12,000-のコースもいいだろう。
この値段で最高の京料理が堪能できる。しかも便利な駅ビルで。
すごい時代になったものである。
二重丸でお勧めの名店だ。