成田駅から徒歩7分、開基1000年以上にもなる著名な寺院、成田山新勝寺の参道に鰻屋の名店「川豊」がある。 古き良き時代を思わせる佇まいのお店の入り口には、2メートルほどの大きな銀杏の木のまな板があり、職人さん達の手馴れた手つきで鰻が次から次へと捌かれ、串を打たれていく。参道に面した焼き場からは食欲をそそる鰻の香りが参道一杯に広がる。この誘惑に勝てる者はそうそういないだろう。
串打ち3年、裂き8年、焼き一生と言われる鰻の味は、実は蒲焼のたれにくぐらす鰻の量にもよって随分違うらしい。捌かれたばかりの新鮮な鰻が幾度となくとたれに浸かることによって鰻の旨みがたれに染み渡るそうである。川豊では創業以来継ぎ足しされたたれに毎日多くの鰻がくぐっている。鰻は繁盛店ほど美味いのだ。
居心地のよい店内では、まずは瓶ビールとほね煎餅。かりかりに揚がった鰻の骨をつまみながら、白焼きを待つ。 きも煮もあれば頼みたいところだが、きも吸が良く出る日にはお目にかかれないようなので、ある日には頼むといいだろう。きも煮をつまみながら呑む熱燗も格別だ。
ふっくら柔らかく焼きあがった白焼きは、わさびと醤油をちょいとつけて口へ運ぶと鰻の香りが口一杯に広がる。蒲焼とはまた違った美味さがあり、日本酒が進む。
川豊で出される酒は成田の地酒、長命泉。さらりとした綺麗な辛口の酒は、柔らかくてく豊な味わいの鰻の蒲焼きと実に良く合う。鰻の旨味を引き立たせる酒だ。
最後には悶絶のうな重。あっさりとしたタレの甘みと、ふっくらとした香ばしい絶品の蒲焼きに山椒をちょっとかけて食せば、もう箸も酒も止まらない。 日本酒を片手に至福の時は過ぎて行く。
参道で買う土産はこの長命泉に決まりだ。川豊から参道の坂道を登ると「滝沢酒店」がある。長命泉を手に入れ、家で飲めば、また旅の思い出にふけることが出来るに違いない。鰻が恋しくはなるが。