鎌倉の「卯月(うつき)」は、私がダントツでお薦めするお気に入りのレストランだ。30年以上日本に住んでいる私が言うのだから間違いはない。このレストランを最初に「発見」したのは20年前のこと。鎌倉に住んでいた友人が連れて行ってくれたのだ。以来、しげしげと訪れては舌鼓を打っている。内装は日本的で、料理は言うまでもなく抜群に旨い。店主で料理人のヒロシさん始め、奥さん、息子さん、そしてスタッフ、客までもがとてもフレンドリーだ。
卯月は炉端焼きスタイルのレストランだ。これほど純日本風のレストランにはそうそうお目にかかれるものではない。幅広の長いカウンター席に座ると、どこからか琴の音が聞こえてくる。メニューに載っている殆ど全ての食材は目の前にあり、カウンターの向こうでは、今まさにその食材が焼かれているのだ。「これ焼いて!」と言うだけで、お好みの料理が即座に出てくる。
調理が終わると、ヒロシさんが料理の盛られた皿を取っ手の長い木のヘラに載せ、カウンターの向こう側から渡してくれる。15種類もの野菜を、時には塩コショウ、時にはパターをたっぷり塗るなど、いろんな味付けで焼いてくれるのだ。目の前で香ばしくおいしそうに焼かれるナスやピーマン、アスパラガス、ポテト、しいたけ等をちょっと想像してみてほしい。豚肉や牛タン、魚の焼き物もあるし、もちろん刺身やそば、シンプルなサラダ等々メニューは盛りだくさんだ。
ヒロシさんの店では時折「クジラステーキ」も食べられる。鯨肉を焼いたものだ。一度高校の同級生で、仕事のため家族と共に数年間日本に滞在していたボブを卯月に招いたことがある。「ボブ、ステーキを頼むぞ、でも、何のステーキかは言わないから、食べて当ててみろよ」と言って、クジラステーキを注文した。お待ちかねのステーキを最初に頬張った時のボブの顔といったら、まさに驚愕の一言。「こんなに美味しいステーキ、今まで一度も食べたことないぞ。分厚くて、肉汁が滴って、しかも柔らかい、完璧だ!」 その後ボブは何の肉か当てようと顔が青くなるまで頑張ってみたが、全く当てられなかった。鯨肉とは想像も及ばなかったに違いない。
最後に、これを語らずして卯月は語れまい。酒だ。ここでは数種のタイプの酒を出すが、私が特に気に入っているのが「升酒(ますざけ)」だ。杉材で作られた四角い升(ます)に入って出てくる酒だ。杉の木の得もいわれぬ香りと酒の旨さがあいまって、それはそれはかぐわしい、良き味わいだ。
機会があれば是非この店を訪ねてほしい。一度行けば、どうして私が飽くことなく何度も通い、今後も通い続けるであろう理由が分かってもらえるはずだ。
卯月では火曜日を除く毎日、11:30-14:00までランチもやっている。日中しか鎌倉にいられない人は、ランチタイムに行ってみては如何だろう。とはいえ卯月は、なんといっても夜が最高だ!!