こんにち、日本を旅して日本らしさを感じることができるのは、地方都市のしかも農漁村に分け入らないとほとんど難しい。観光地を巡るだけではどこも土産物屋が軒を連ね、数十分の滞在で「ほお!」とか「へえ!」とか感嘆して次に移動するというくらいだからである。旅の醍醐味はその土地に根付いている文化を肌で感じることだ。それにはそこに暮らす人々との交流があって初めて可能となる。それを成し遂げる方法の1つが農漁業体験だと思う。日本は縦に細長い国だからそれぞれに気候風土が異なり、それを反映する農漁業も個性がある。この農漁業体験ができ、グリーンツーリズムを楽しめる農家民宿が、農家民宿「オーベルジュ フジイフェルミエ」である。
「オーベルジュフジイフェルミエ」は、福井県・越前海岸にほど近い小さな農村の中にある。くっきりとした美しい四季がのどかに移ろっていく静かな村だ。耳を澄ませば野鳥の鳴き声とかすかに吹き渡る風の音だけ。東京や大阪といった大都会の雑踏とは正反対の日本がここにはある。
グリーンツーリズムということばが最近メディアで取り上げられるようになってきた。このグリーンツーリズムはフランスで生まれた。第二次大戦後、急速に発展をとげるフランス産業経済。フランスは元々農業国なのだが、世界をリードする最先端工業技術立国でもある。自動車、航空機、ファッション、原子力発電などなど。その中心はパリだ。世界屈指の企業が集まる中、そこで働く人々のストレスも大変なものである。そこで彼らは週末になると、地方の農村に出かけ、村の民宿に泊まり、周囲の林や川のほとりを散策して自然に我が身を浸したり、もっと積極的な人たちは農夫に教えを乞いながら牧草刈りや牛舎の清掃などの農作業で汗を流して、心身をリフレッシュした。こういった「農家民宿」の潮流はごく自然発生的に生まれ、それはやがて「グリーンツーリズム」と呼ばれるようになる。今や世界中で盛り上がってきつつある自然回帰への欲求の機運。日本は、これからだろう。
都会の喧騒から離れて、地方の田舎に旅してみたい。疲れた体と心に自然のシャワーを浴びせたい。観光地をなでるような旅ではなく、日本の田舎の農村に旅靴を脱ぐ旅はいかがだろう。田舎の浜辺に座って潮風を浴びる。落ち葉や小枝を踏みしめながら、木漏れ日が降り注ぐ新緑の雑木林を歩く。竹林に佇み、そよ風が打ち鳴らす竹の葉のかさこそという音を聞く。日焼けしたしわだらけの笑顔が清々しい農夫とすれ違いざまの会話を楽しむ。ひなびた温泉の露天風呂に身を沈める。田舎への旅はどれも心が休まるものばかりである。それをさらにちょっと掘り下げて、農夫や漁夫のまねごとをさせてもらおう。旅人には、にわか農夫、にわか漁夫で十分なのである。本物レベルの体験などしたら身が持たない。もちろん意欲的にやりたい人は汗にまみれる農業体験を存分に楽しんでほしいと思う。もし田舎暮らしに興味がわいたら都会を脱して田舎に移住する。スローライフの実現である。それがどんな豊かな人生をもたらすか、体験してみなければ分からない。まずは一泊の旅からすべてが始まる。
「オーベルジュ フジイフェルミエ」がある小さな農村は周囲が田畑や林に囲まれているから散歩に最適である。くぬぎ林や竹林を抜ける小道を歩けばいろいろな野鳥の鳴き声が聞こえてくる。浜辺へも徒歩15分だ。農漁業体験は「オーベルジュフジイフェルミエ」で直接できるものと、提携先の農園に出かけてできるものとがある。
たとえば農業体験は、醤油作り、塩作り、さらに四季折々の農作物の収穫、味噌作り体験、梅干し作り体験。提携先の牧場での鶏や牛の世話体験。すべて若干の費用がかかる。詳しくはご予約の際にお問い合わせして確認したい。もちろん、農漁業体験をしなくても一泊の農家民宿滞在は楽しいものだ。近くに天然温泉があり、¥570で天然温泉の露天風呂が楽しめる。「オーベルジュフジイフェルミエ」の料理は、地元福井でとれた野菜や魚を多用したフランス料理スタイルである。和食も楽しめるから予約の際にリクエストができる。 隠れ家のような宿である。夕食付き宿泊は土曜日の夜と日曜の1泊2日にのみ対応。その他は素泊まりのみの営業である。予約がなかなか取れない。早めの予約が必要だ。