福井県敦賀市を起点に東尋坊辺りに至る全長約百キロの越前海岸は柱状節理などの奇岩が連なる景勝地だ。
その磯浜の海岸線にあって、鷹巣という海沿いの地にある美しい砂浜は、ごつごつとした大男の岩の腕に抱かれた乙女のように、柔らかい砂の浜辺をおよそ三里の長さで弓なりにしならせながら横たえている。
九頭竜川河口から吐出される砂は入江に巻き込むように流れる海流に乗ってこの三里浜の岸辺に到達する。
砂時計が一千万年の時を刻む砂を落とす内に、九頭竜川は口から砂を吐き海流はその砂を岸辺に撫で上げた。
かくしてこの砂浜の見事な弓形となる。
今でこそ臨海工業地帯の無粋な石油備蓄タンクという瑕疵(かし)がこのアーチの美を曇らせてはいるが、かつては青松白砂の眩しい砂浜であった。
今も防砂林の松林が海岸沿いに茂る。生態系の変化にとても敏感なハマグリは消え去ったがそれでも多くの魚介類が鷹巣の浜には生息している。豊かな自然がここにはまだしっかりと在る。
浜の砂の粒子はやや荒く色も黒い。
これは九頭竜川沿いの安山岩が流れる内に砕かれ砂となったためだ。
越前海岸にある火山岩の色はおしなべて暗黒色である。
一方、水は極めて透明だ。
日本海の冬の荒波の強烈さは筆舌に尽くしがたい。
大陸から日本列島に向かって日本海上を吹き荒れる季節風は海面を四方から揉みしだき、作られた三角波が海岸の砂を大きくえぐりとってしまう。
その海浜侵食を防ぐために、海岸からさほど遠くない距離にテトラポット緩衝が沈め置かれている。
この緩衝のおかげで、波の高い夏の日でも海水浴は楽しい。
7月になると海の家が建てられて鷹巣の浜は短い夏の賑わいの始まりだ。
泳がずとも、冬も過ぎた3月から土用波が冬の荒波に変わる11月まで、鷹巣の静かな浜辺は沖の水平線を眺めるためだけでもその砂に腰を下ろす価値はある。