福井三国 「ソニョーポリ」

地産地消を掲げるイタリア料理レストラン

福井県三国町安島(あんとう)。

東尋坊が近い海岸沿いには柔らかい緑の雑木林が広がる。

福井は北陸という名前から厳冬のイメージが強い。

しかし、海岸の沖合を対馬海流という暖流が流れるために、越前海岸線には温暖地に繁茂する樹木種が多い。

イチイ、ヤチダモ、ニセアカシアなどがこんもりと茂る豊かな林が安島あたりには続いている。

その林の木々に抱かれるように佇むレストランが「ソニョーポリ」である。

イタリア語で「夢の町」という意味のこのレストランは、異色の料理人、山本剛司さんが10年前に開いた。

なぜ異色かというと、彼は若かりし時、オートバイのプロレーサーだったのである。

スピードの限界に挑むというのも、突き詰めていけばある意味では自分への挑戦でもあるだろうか。

彼はレーサーでありながら同時に、料理することへの楽しみとこだわりも持ち続けた。

その料理の追究がやがてその後の山本さんの人生を切り開くことへとつながっていったから、人生は不思議である。

山本さんは、福井県産の素材を可能な限り使う「地産地消」スタイルをとっている。

これは私が出会うどのシェフも口をそろえて仰ることなのだが、その土地の水と食材を使って調理するのが一番美味しい、というのである。

その料理を食べるのが主にその土地の人々だからでもあろう。

もちろんすべての食材が地産地消で賄えることはなく、遠方からも調達する。

しかし、同じ食材があるのなら間違いなく地元産だと。

実際、山本さんの仕入れ先は近隣の農家市場であり、数軒の契約農家である。

その他に遠く大野の朝市にも週3回繰り出すという。

「日本で採れる野菜は味がやさしいんですよ。外国の遠隔地から食材を調達するレストラン経営もありますが、それは違うと思う。」

、と山本さん。それはフードマイレージだけの問題ではない、と仰る。

自分の眼で確かな食材を調達する姿勢は当然「ソニョーポリ」の料理にも反映して、そのやさしい味わいのファンは福井県内にとどまらない。

さらに、地産地消の食材調達は野菜だけに限らない。

昨今はイノシシや鹿などの獣害が深刻である。

当然毎年数千頭もの獣が駆除されているのだが、そのほとんどは埋設処分されているのが現状だ。

本来であれば貴重で美味なジビエ(野生の獣肉)である。

これを食材に生かさない手は無い。

山本さんも何人かの猟師と連携してジビエ料理をメニューに載せるべく奮闘している。

「でも、例えばイノシシ肉の値段が高すぎるんです。キロ三千円と言えば、国産牛の値段です。これではジビエは見向きもされません。レストランにもリスクが大きい。」

行政も獣害撲滅とジビエ振興をテーマに掲げるのであれば、山本さんのようなジビエに積極的に取り組んでいるシェフをもっと後援してもらいたいものだ。

高知県ではスーパーでイノシシ肉が百グラム50円で売られているという。そしてその美味しい食べ方もあちこちで講習会が開かれている。

これくらいしないと福井県民の皆さんにはジビエを口に入れてはもらえないだろう。

福井県や坂井市の一層の取り組みを期待したいものだ。

「ソニョーポリ」はイタリア料理レストランである。しかし、例えば、火を入れない昆布出汁がベースのパスタを出したりする山本さんの発想は実に自由だ。

「いろいろなジャンルの料理がありますが、洋食の料理人は結構自由ではないと言えます。和食料理人の方が発想も実際の調理も自由ですね。」

そう言われるのを聞いて得心したことがある。

京都錦市場の包丁店「有次(ありつぐ)」で和包丁を物色している外国人は世界中からやってきたシェフたちだというのだ。

彼らは和食の粋である京料理の勉強かたがた、その京料理を作る和包丁を買って本国に帰り、それで彼らの料理の幅を広げていくのである。

かねてから調理法や盛り付けの洗練さに世界中のシェフたちに熱い注目を浴びていた和食は、こんにち、和食が世界遺産に登録されたことがさらに大きな契機となって、新たな料理の世界へと若いシェフたちを突き動かしているのだ。

 山本さんもその一人であろうとお見受けした。

「そのつど、良いと思うことが変わります。仕入れ次第でメニューが変わります。自分を飽きさせない自由さが私には貴重です。自分自身が変化を欲しているんです。」

 

レストランで食べる食事は自宅の食卓を離れた非日常の料理である。

料理はそれぞれジャンルがあるが、今日の世界のボーダーレス化で、料理もその例にもれず融合の時代となった。

伝統的なローカル料理も美味しいが、本来、料理の味わいはシェフその人の料理の技量に基づくものだろう。

深くて複雑な味わい、しかもそれが楽しい美味しさ。

これはひとえにそのシェフの人となりから湧き出すエネルギーそのものである。

ご自身を自由な変化の風に任せたいと仰るから、ひょっとしたら将来シェフではない人生を歩んでいるかもしれない山本さんだが、私は彼がシェフをさらに極めていてくれることを彼のファンとして切に願う。

 「料理人は60からが勝負です。衰えてきたときに、持っている感覚が生きるからです。」と仰るから大丈夫だろうか。

 四季の移ろいに合わせた豊かな食材のディッシュで私達を楽しませてくれる「ソニョーポリ」が自宅から30分の距離にあることを幸せに思う。

 山本さんの料理ファン、「ソニョーポリ」のファンがもっと増えて、福井のジビエも有名になるとさらに嬉しい。

ぜひ、とお薦めの名店である。

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