京都「ドゥ・コション」

京町家のこわだりワインバー

京都の街を旅歩きしながら黄昏時を迎える。

ちょっと一杯飲みたい。そう思って「ドゥ・コション」のドアを開けた。

ドゥはフランス語のdeux、つまり「2」。コションはcochonで「ぶた」。二匹の豚である。

ご夫婦だろうか。始めてなので根掘り葉掘りとは聞けない。

物静かな感じのオーナーだ。だが、とても気遣いを感じさせてくれる。

このワインバーの特長は何と言っても「ビオワイン」だろう。

通常ワインには酸化を防ぐために亜硫酸塩が混入されている。これは揮発性が高く、コルク栓を抜くと、あっという間に揮発してしまうから人体には害はないとされている。添加物というのは無いに越したことはない。だがその添加物が果たす役割がとても大きく、それに代わる機能を持つものが他にない場合、むげに無添加を叫ぶのは危険だ。

この亜硫酸塩未使用(使用しても微量)のビオワインは当然のことながら、必然的に良くも悪くも複雑な香りと味わいが特徴となる。

より自然な形でのブドウ栽培とワイン醸造を旨とするビオワインが今注目ではあるが、まだまだその品質は不安定だし、熟成過程で酸化しやすく、扱いが難しいために流通に限界がある。

もう一つワインについて大切なことがある。

それはワインは農作物である、ということだ。より品質のしっかりした葡萄を丁寧に作ることからより美味しい高品質のワインができるからである。

ドゥ・コションのオーナーはフランスなどの小さなワイン醸造家を丁寧に回り、その中で彼の眼鏡にかなうワインを選んでいるという。

サントリーやメルシャンなど日本の大手ワイン輸入業者は彼らの全国販売ネットワークに流通させられるに足る量のワインを選定する必要がある。そのため、小規模醸造家のワインはたとえ品質が良かったとしても、彼らは手を出さない。また小規模醸造家にしてみても、自分の身の丈に余る規模のワイン作りを持ちかけられたところでそれは長い目で見ると彼らのビジネスにはならないことを知り抜いているので、逆に彼らが生産する量を丁寧に安定して売ってくれるようなバイヤーこそビジネスの相手としてふさわしいと考えているのだ。

ビオワインはその性格上、作り手のポリシーがふんだんに惜しみなく注がれている。

だから往々にしてこのようなこだわりはコストを押し上げやすくビジネスにはなりにくいのだけれど、京都という街はそもそも歴史上、こだわりの塊みたいなところだから、京都とビオワインはちょうどいい相性なのだろうと、私なりに思ってしまったものだ。

テーブル席側の壁には、およそ100種類のビオワインのボトルとその解説カードがきれいにディスプレイされている。

どれを飲もうかとカードを読むのはとても楽しい作業だ。

今宵はローヌとラングドックの赤ワイン、そしてシャンパンをグラスでいただくことに決めた。

南フランスの赤ワインは果実味が豊かでブーケも華やかだ。使用の葡萄はマルベックとムールヴェードル。

ちょいと一杯のつもりがたっぷり頂いて、料理も美味しく、たっぷりのディナーになってしまった。

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