日本海を臨む越前海岸は奇岩奇勝がとても美しい。
複雑に入り組んだ海岸線をなぞるように伸びる道路。
潮風の匂いを深く吸い味わいながら、海に突き出た岩に根を食いこませて立つ松の青さに見惚れながら走らせる車の旅は楽しいものだ。
鷹巣という地区がある。福井市街から国道416号を西に走り、やがてつながる305号線を左に折れるとすぐの辺りだ。
この鷹巣の美しい海岸にも興味深い伝説にちなんだ島がある。
元号が天平勝宝というから西暦749年から757年の間ということになる。この頃に中国から禅海という位の高い僧が船で福井の沖を渡っていた。岬をぐるりと回った時、遠くはるか隔たった中国の故郷の育王山とも見まごうべき山が禅海の目に飛び込んできた。
その山は糸崎山という。入江に船をつけて小さな漁村を訪ねた禅海はこの糸崎村が大層気に入り其処に庵を結んだ。
ある日黄昏の茜雲が西の水平線辺りを染めた頃、海中から翡翠色の毛に包まれた大亀が現れた。その背中に千手観音菩薩が神々しい光に包まれて立っている。菩薩は海岸に降り立つや木彫りの像に化身した。亀はそのまま海岸で岩の島と化した。以来その島は亀島(がめじま、と発音する)と呼ばれている。
さらにこの糸崎の村には伝説が続く。その千手観音菩薩像を抱えあげると、禅海上人は糸崎寺の本尊として祀った。ある朝、上人が民を招いて本尊の開眼供養をしていると、天から眩しい光が降り注ぎ始めた。一同驚いて外に出てみると、紫の雲に乗って諸々の菩薩が数多現れ寺に降り立つと、菩薩たちが舞い踊り出したではないか。ゆえに、この舞は「仏舞(ほとけまい)」と呼ばれてきたのである。
西暦の奇数年の4月18日に糸崎寺の境内で奉納されるこの「仏舞」は、国指定の重要無形民俗文化財である。数百年の長い時を超えてこの舞は糸崎村の、そして福井の貴重な宝として今日にも受け継がれている。