福井市の西部、鷹巣地区に和布という漁師町がある。
「めら」と読むこの集落には小さな漁港があって、数百年もの昔からこの地の人々の暮らしを漁業によって支えてきた。
昨今は魚嫌いの子供が増え、漁獲高が資源枯渇で激減し、高齢化で漁業の後継者が途絶えるといった、暗鬱とした状況の日本の漁業である。
この和布も当然ながらその例外ではない。
和布漁港は鷹巣漁港とも言う。
私が訪れた日は気持ちのいい春の青空が晴れ渡っていた。
港のコンクリート堤には漁網が干されてある。船上では老いた漁師が一人、漁具の修理に余念がない。
かつてこの港には数十隻の漁船が係留され、四季を通じて大漁に湧いたものだ。
今は、しかしながらその船の数は十を切る。
そんな小さな漁港は日中ひっそりと静まり返っている。
でっぷりと太った黒猫が突然の闖入者を睨みながら悠然と私の前を横切ってゆく。
実は私はこの港に子供を連れて釣りをしに来たのである。
釣りというよりは、ピクニックである。
そのついでに暇つぶしで釣り糸を垂れていると言った方が正確かも知れない。
釣りができる港といえば、三里浜にある大きな福井新港の方が有名だ。
連日、年内外から多くの釣り人が押し寄せる巨大釣り堀である。
だが、広いゆえに強い風が吹いたりすると足取りの不確かな子供には危険が多すぎる。
だから、子供と一緒ならこの和布港の方が断然安心で快適だ。
すぐ近くに雑貨店もあるからなおのことファミリーには便利な港だ。
子供はおやつを食べたりおにぎりやサンドイッチを頬張ったりしながら、私が釣り上げる小アジに歓声を上げる。
普段子供と中々遊べないお父さんにとっては、お父さんも楽しめ、子供も退屈しないこの「漁港での釣り」は、お勧めの週末プランだ。
ちなみに、釣具などはまったく適当でいい。
私は、釣り糸と針と重りは一応釣具店で調達してきたが、釣り竿は道中の藪で探した竹の枝だ。
かえってそういうサバイバルみたいな方が楽しい。
それで結構釣れる。この日も子アジ14匹、小さなカサゴ3匹。
餌を付けた針を水に入れるやたちまち魚が寄ってくる。
餌を飲み込むタイミングに合わせて竿を上げる。
子供に釣り方を教えると、子供は夢中でその作業に没頭する。
集中力も養われるだろうか。
飽きたらすぐに帰ればいい。
だが、子供はなかなか立ち上がらない。
小さな子供は親と一緒にどこへでも付いてきてくれる。
12歳ほどにもなれば子供は親とより友達と遊ぶほうが楽しい。
だから、子供が小さい内はせっせと子どもと出かけよう。
和布漁港で釣り糸を垂れながら子育てを楽しもう。
お父さん、今しかありませんよ。