長野県下諏訪にある有名な諏訪大社春宮の森の近くにある小さな田んぼのそばに、大きな鼻の石像がポツンと立っている。万治の石仏と言われ、2メートルの体の上に65㎝の高さの顔がのっている。不釣り合いなほど大きな鼻のせいで、エキゾチックでユーモアのある表情、世俗的にさえ見えるが、体に掘られた模様は明らかに仏を表す。万治3年とあり、西暦では1660年に建立されたことになる。この石像の存在は、そのふざけたような容貌ゆえに長年にわたって無視されてきた。300年後の20世紀に入り、上諏訪出身の作家、新田次郎や、大阪万博の太陽の塔で有名な岡本太郎らに見い出され、以来その石像の存在は広く知られ、今日のようにたくさんの人が訪れるようになった。
伝説によれば、ある石工が神社の鳥居を建てるためにこの岩に斧をふるったところ、血が噴き出した。びっくりした石工はその手を止め、夢のお告げでほかの石を切り出すようにと言われた。その通りにして鳥居は無事にできた。でも血の出てきた岩に怖れを抱いた石工は、それを仏像にして祀ることにした。その斧による傷痕はいまでも残っている。
この石像は旅行者の人気の場所となった。普通の伝統的な仏像とは異なるけれども、まぎれもなく日本人の作ったもので大変に興味深い。ぜひとも訪れてほしい。