日本の外食産業は今や世界中の料理が提供される、百花繚乱の様相を呈している。
このおかげで日本人は年平均600種類の食材を食べているのだそうだ。
アメリカ人が口にするそれが120種類。この差を見ると我々日本人の食卓の豊かさが分かろうというものである。
その数ある外国料理店の中でも、今日もっとも日本人に人気なのはイタリア料理だろう。
フランス料理はある特定の人たちのための高級料理のイメージがある一方、イタリア料理は普段の家庭のご飯という気取らないイメージがあるからかもしれない。
もとより料理の味付けに特異なクセがない。
さらに、素材本来の味を活かす調理法は和食のそれと通ずるものがある。
たとえばスパゲッティはほとんどわが日本でも国民食となった感があるし、ピザも老若男女問わず幅広い世代に大人気の料理である。
昨今、イタリア本国に在る店舗の形態が日本でも同様にイタリア語表現で展開されてきた。
バール(バー、喫茶)、スパゲッテリア(スパゲッティー専門店)、ピッツアエリア(ピザ専門店)、オステリア(居酒屋)、トラットリア(食堂)、タベルナ(食堂)、リストランテ(高級レストラン・割烹)といった具合だ。
そんなイタリア料理の名店がここ福井にもいくつかある。
福井市四ッ居にある「ペスカトーレ」はその一つだ。
トラットリアのスタイルである。
全体的な味わいは、とても優しく深い。
オーナーシェフの人柄だろう。
若いシェフだと奇をてらったメニューやパンチの効いた味付けをすることが多い。
最初はおいしい!と感じても、2皿、3皿と進んでいくうちに食べ疲れてしまうレストランが実際とても多いものだ。
同じ食材を同じ器具を使って調理しても、火の入れるタイミング、加減、素材の切り方等々わずかな違いが合わさり、大きな味わいの違いになっていく。
料理は不思議だ。
オーナーシェフはもう30年の大ベテラン。
ギターがとてもお上手らしい。
石川県の久谷焼の陶芸アーティストである娘さんが焼いたすてきなオリジナルのカップ&ソーサーでカプチーノをいただいた。
ここ「ペスカトーレ」では、小さな子供連れのお客は入店を断られる。
リストランテの意識を持ったトラットリアだからだろう。
しかしこれもごく最近決めた苦肉のルールだという。
あまりにも、子連れの若い夫婦のマナーが悪く、ほかのお客の迷惑になることが連続したからだと仰っていた。
店が客を躾けることは昨今とても重要だ。
客がマナーを知らなさすぎるからである。
子供の躾がなされていない家庭が多すぎる。
それはとりもなおさず親自身がマナーを知らないという証だからである。
金を払うんだから好きに食わせろ、という妙な平等意識の傲慢さが日本人に蔓延してもいる。
レストランデビューをさせるには自宅の食卓で十分な躾とトレーニングを積んだ後であるべきだ。
それができておらず、それでも外食したいのなら、ファミレスに行って、そこで赤恥をかいてくればいい。
そのようなプライドある姿勢は料理にも反映されていて、どのディッシュも完成度がとても高い。
中でも私のお気に入りは「ガーリックスープ」である。
これは美味しい。疲れが取れ元気になる。
これをいただくのが私の恢復法だ。
そしてピッツァ。
ここは、ローマ風だ。
ピッツァ生地が薄くてクリスピー。
大都会のローマは何しろ忙しいので、ピッツァも早く焼きあがるように薄いパリパリっとした食感の生地なのだとか。
ナポリピッツァのふんわりもちっとした厚手の生地とは対照的だ。
私はそのどちらもおいしいと思う。
この「ペスカトーレ」はご夫婦で経営している。
そんな家族の温かさが店内に満ち満ちていて、出かけるたび幸せな気持ちになれる名トラットリアである。