地方都市における公共交通機関の便の悪さはいかんともしがたいものがある。
少ない人口に比例して公共交通機関の利用者が少ない。
採算に合わせてダイヤを減らす。
すると、利便性の悪化が自家用車に切り替える割合増加に拍車をかける。
更に利用者が減って採算が悪化しダイヤを減らす。
このような悪循環は日本全国津々浦々あまねく見られる現象だ。
福井嶺北地方(福井北部)の京福電鉄もその例外ではなかった。
折しも2000年12月と2001年6月、わずか半年の間に2度に渡って発生した京福電車越前本線の列車衝突事故によって、福井の嶺北地方における住民の足・京福電車はその息の根を止められた。
鉄道を廃止しバスに切り替える手段が当然ながら検討されたが、鉄道というのはその地域における生活の輝きのシンボル的存在である。
それが廃止となれば住民の足が奪われるだけでなく、過疎化の行く手に待ち受ける地域の破綻という暗鬱さをほのめかす。
その結果、その地域が荒廃していくのは必定である。
これを憂いた福井県は翌2002年、第三セクターによって鉄道を存続させることを決定した。
福井市・勝山市などが出資しその会社を「えちぜん鉄道」として2003年に事業を開始した。
愛称は「えち鉄」である。
えち鉄はかつての京福電鉄時代の発想を180度転換した。
「赤字だからコストダウンのために人員削減」、という図式から、「マンパワーによって逆に乗客とのコミュニケーションを図り採算を上げる展開」という方向へと大きくレールを敷き替えたたのだ。
自動券売機ではなく窓口で乗車券を係員が販売する。
これで利用者の年齢など生きた情報が把握できる。
さらに秀逸なのは若い女性客室乗務員を車内に配置した戦略である。
かつての鉄道の旅は、さも乗せてやっているというような無愛想な車掌が通例であった。
それがどうだ。えち鉄の車内の向こうから歩いてくるのはにこやかな女性アテンダントの笑顔である。
これで車内の空気が一気に華やいだ。
この女性客室乗務員は無人駅からの乗客に乗車券を車内販売するほか、乗降駅やその周辺の案内なども教えてくれる。
これは、地元住民はもちろんのこと、初めてその電車を利用する観光客にとってもとてもありがたい存在である。
私自身福井・三国線はよく利用するが、物腰が穏やかで優しい語り口のこの客室乗務員にはジェット旅客機のフライトアテンダントの素敵さを重ね見る思いだ。
そのような「えち鉄」の企業努力が実を結び「えち鉄」はこんにち、全国的にもまれに見る「成功した第三セクター鉄道」のモデルとして全国から仰ぎ見られる存在となっているのである。
JR福井駅に降り立つ観光客は、レンタカーの利用もいいが、ぜひ「えち鉄」の電車で永平寺や三国訪問をお勧めしたい。
えち鉄は車両も新しいから座席も座って気持ちがいい。
車窓ののどかな風景も楽しめる。
混雑していなければ素敵な客室乗務員に観光の質問などして旅の楽しみをさらに増幅させることができる。