ラジット(L’ajitto)とはフランス語で「隠れ家」の意。
隠れ家のようにくつろいで美味しいワインとさりげないフレンチを楽しんでほしいと、藤井隆明オーナーシェフが2019年6月にオーブンしたばかりのフレンチブラッスリーである。
藤井さんは、福井市二宮にあるフレンチの名店「ジャルダン」で料理人としてのキャリアをスタートさせた。
ジャルダンの名誉シェフである黒味傅(くろみ つたえ)さんに強く惹かれ、その「料理に、食材に決して妥協してはならない」という黒味スピリットに強く惹かれててのことだった。
客が気付かないところまで客と向き合う。
レストランでの主役はあくまで客。料理はそれを盛り上げるわき役なのである、と。
このような謙虚な料理人の精神に感銘を受けた藤井さんは、料理人としての修業の道を黒味氏に預けた。若干19歳のときである。
外の世界を勉強しようと、東京「帝国ホテル」に4カ月修業に出たこともあった。
そこで学んだことは組織としてのレストランの効率化。
魚、肉、ソース、デザートと完全分業制の巨大ホテルから受けた刺激は凄かった。
しかし、自分の店「ジャルダン」を振り返ってみれば、シェフたちが前菜からメイン、デザートまで全てに関わり創り上げて行く。研ぎ澄まされた調理技術を持って料理と向き合い客に侍するジャルダン。そのスタンスに逆に惚れ直した。
34歳のとき「トックドールコンテスト」という全日本司厨士協会の大会に出場。
予選を勝ち抜いて本選に出場し、全国総合4位となる「厚生労働大臣賞」を受賞。
また翌年にはメニューコンテストで全国400人のシェフが応募する中で総合6位に入選した。
ジャルダンはフレンチの王道の料理を供する正統派の店だが、藤井オーナーは、「お客様がくつろげ肩ひじ張らないカジュアルな料理を出したい」、という気持ちを募らせていた。
そんな夢を師匠の黒味氏に相談し、満を持して開店に至ったと言う次第だ。
藤井隆明オーナーは41歳。
同い年の奥様とスタッフとで店を切り盛りする。
店内はモダンで明るいインテリアだ。オープンキッチンでシェフの仕事が見て取れる。
食材は福井の地野菜と地魚を多用する。
思えば、福井は平安時代から「御食国(みつけくに)」として京都の天皇や貴族たちの食を支えてきた歴史を持つ。温厚で誠実な藤井シェフの料理もお人柄と同じく優しい。
「試行錯誤です」と謙虚に話す藤井さんだが、胸にはいろいろなアイデアやプランを秘めている。前途洋洋たるシェフのいる隠れ家レストランである。