香取市佐原

~千葉の地酒を飲み比べ~

水と米と麹。日本酒の原料は至ってシンプルだ。2000年以上に渡り、日本酒は日本の文化と深く関わってきた。日本酒づくりの知恵は日本各地でうかがえる。文化を理解するということは、その歴史や社会環境をより理解するということにもなる。ということで、旅行代理店のJTBが主催する外国人のためのツアーを利用し、私は千葉の一番古い酒造元を訪れた。

今回の舞台は千葉県香取市佐原。江戸時代に日本酒の取り引きで成功して以来、小野川のほとりで今も観光客を集めつつ酒文化は生き残っている。小野川は、江戸に向かうのに重要な役割を果たしていた利根川に合流する。江戸に向かうのに大変便利な環境が整っていたため、当時の佐原には酒造元が65箇所も存在し、「江戸よりも立派」という風潮まで生まれた。しかし残念なことに、鉄道が敷かれたことで佐原は孤立化し、現在に至っては香取の酒造元は3カ所のみとなってしまった。

私たちを乗せたボートは、赤煉瓦の煙突が聳える馬場本店酒造に向かった。レンガの煙突は、土と杉の木からなる江戸時代の他の多くの建物と違い存在感があったにちがいない。国際貿易が盛んになりはじめたことも受け、馬場家はイギリスからレンガを購入し煙突を建てた。煙突は佐原の繁栄の象徴となり、以来、現在に至るまで町と共に何とか辛抱強く生き抜いている。

馬場酒造は、午前10時に私たち来訪者を日本酒と共に歓迎してくれた。バナナのような香りのするそのお酒は、目覚まし時計の役割を担った。フルーティな香りは麹の成せる技だそう。ぶどうを搾り自然に(もしくはイーストで)発酵させたワインと違い、麹はお米に付着した菌がデンプン質を糖質に変える。その過程により、果実のように爽やかになったり、深みを生んだり、日本酒の味が左右される。

馬場酒造は1700年代に創業し、現在は15代目。当時の建物を見学した後、私たちはみりんとお酢を試飲した。みりんは不思議な味のするシロップのようで、参加者全員がお土産の袋を手にした。

馬場酒造から下った所にある東薫酒造は、また違った種の日本酒を提供している。町の店頭では販売していない「叶」という特別の日本酒を試飲させてもらった。大吟醸で、約半分を削り取った米で作られている。一般的には米の60%から70%を削ったものを使用する。大吟醸は純粋でキレがよい。次に試飲したのは、黄金色のボトルに入った20年ものの古酒。ウィスキーのような色で、嗜好品とでもいうのか非常に深い味がした。

次に訪れたのは佐原からほど近く、香取市内にある鍋店酒造。馬場酒造と東薫酒造は今なお江戸時代の建物を使用しているが、鍋店酒造は当時の建物を倉庫として使用しているのみである。それとは別に、更に大きくなったモダンな造りの酒造所を小野川のほとりに構え、現在は17代目が継いでいる。1689年創業の鍋店酒造は、味に妥協を許すことなく千葉で3番目に古い酒造元として現存している。

鍋店酒造では、麹の扱い方についての詳しい説明があり、私たち参加者は麹を試食した。よどみと甘みのある発酵菌。モダンな造りの建物とは裏腹に、酒造りに関しては伝統を重んじている。麹は暖かい部屋で職人の手により発酵され、同じく職人の手により酒粕と水分(すなわち酒)に分けられる。そこで搾り出される原酒と呼ばれる新鮮な酒を試飲した。この段階では水分の混じっていないような非常に強い味がする。濃く深く、個人的に大変気に入った。鍋店酒造は、近代と伝統とが巧みに交わった酒造元であった。

今回の酒造巡りは、その環境、製造法、そこを訪れた私たちの週末をどのように楽しませてくれたかなどにより、それぞれ違った特徴があることを気づかさせてくれた。かつては酒造元が繁栄した町。私たちのような観光客により、江戸時代の佐原が甦ることを心より願う。

馬場本店

住所:〒287-0003 千葉県香取市佐原614

電話:0478-52-2227

営業時間:9:00~17:00

予約:要予約

東薫酒造

住所:〒287-0003 千葉県香取市佐原627

電話:0478-55-1122

営業時間:9:00~15:30

予約:要予約

鍋店酒造

住所:〒286-0026 千葉県成田市本町338

電話:0476-22-2662

営業時間:9:00~17:00

予約:要予約

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