桜鱒は銀色に輝く美しい魚だ。
鱒という名が付いているが鮭の仲間である。
川で孵化し海に下り1,2年後産卵のために生まれた川へ戻る。
この産卵のための遡上が折しも春、桜の咲く時季であること、それに胴体がほんのりと桜色に染まることから、この「桜鱒」という名が付いたらしい。
桜鱒はその姿の美しさもさることながら、味も素晴らしい。
脂が乗った身でありながら少しもクセが無い。
刺し身は喉越し爽やか。
塩焼きにしても煮付けても美味い。
舌の上から消えてもしばし身の旨味の余韻にひたれる。
そんな美味魚だが昨今は漁獲量が激減してなかなか獲れない。
そのような事態を深刻に憂いた福井県九頭竜川中部漁業協同組合(中部漁協)はかねてより桜鱒の人工孵化と放流事業を手がけてきた。
その成果は徐々に現れ、九頭竜川に桜鱒が少しずつ戻り始めたのである。
それに伴い、全国の太公望達の間で九頭竜川の桜鱒が噂に登り始めた。
全国から腕に自信のある釣り人たちが春の解禁を目掛けて九頭竜川にやって来るようになったのである。
今では九頭竜川は日本一の「桜鱒の聖地」と呼ばれ、桜鱒を狙う釣りファンは年間5000人にものぼる。
腕に覚えのある上級者を持ってしてもそうたやすくは釣れない。
だから幻の魚、幻の高級魚と呼ばれる所以である。
この九頭竜川の桜鱒釣りにはルールがある。
餌で釣ってはいけない。
ルアー(疑似餌)のみ許可の釣りである。
となると、数多あるルアーの選択も太公望たちのこだわりと楽しみだ。
一日数百人がルアーを泳がせて、釣リ上げられる幸運な人は十数人。
それほど難しい。だが釣れるとなると、60センチ、70センチの大物が飛沫を上げ水面を打つ。
その釣り人の歓喜の雄叫びを耳にすれば、ますます気持ちは熱くなる。
さて、桜鱒のよく釣れるポイントが、国道416号に架かる高屋橋辺りだ。
雨の日も、風の日も全国からやって来た釣り人たちが糸を垂れている。
晴天の暖かい日なら、土手に座って釣り人を眺め過ごすのもいいだろう。
釣りが好きなら近くの釣具店で入漁料を払ってルアー釣りに勤しむのもいい。
運が良ければ、桜鱒を釣り上げる幸運な太公望を見ることができるだろう。