1杯のラーメンが国際企業へ。
そんな伝説的な人物こそ、8番ラーメン創業者・後藤長司である。
およそ半世紀前、1967年の冬に石川県加賀市の国道8号線沿いの、なんと田んぼの真ん中に粗末な小屋のような構えのラーメン屋を後藤氏は開いた。
8号線だから「8番ラーメン」。
そのネーミングもシンプルでユニークだが、もっと客を引き付けたのは売り出したラーメンそのものだ。
炒めた野菜をたっぷり乗せた塩ラーメン!
その美味さはたちまち近隣の人々の噂になる。
わずか25席の小さな店だが、一日千三百杯を売り切る大繁盛ぶり。
わずか数年後に後藤氏はフランチャイズチェーン化を展開し、今や中部近畿10県に154店舗、さらに海外店が中国、タイに合計108店と年商数十億円の素晴らしい企業に成長した。
ハチバングループとしてはラーメン店以外にも居酒屋や食堂など多角化を図っている。
が、やはりハチバンは「8番ラーメン」、それも「塩ラーメン」だと私は思う。
このラーメンは本当に美味しい。
福井のローカルテレビ局が行った「福井県内ラーメン店人気投票」(2013年)でも、8番ラーメン店は断トツの1位だった。
石川・福井在住の年配の方々なら若い頃に北陸地方のどこかで一度や二度はこの「8番ラーメン」の暖簾をくぐった記憶があるだろう。
私など、高校の部活の帰りにめまいがするほどの空腹と疲労を「8番」の「塩ラーメン」が満たし癒してくれた思い出は今もなつかしい。
炒めたパリパリのキャベツやもやしが香ばしい野菜が極太麺のしっかりとした噛み応えと相まって、お腹にぐっとたまる。
腹持ちがいいから男性の昼食にもなる。
昨今、海外からの旅行客の間で、日本のRamenが大人気なのだという。
それもそのはず、麺、スープ、具と、全国のラーメン店主たちが研鑽に研鑽を重ねた上の洗練された料理なのである。
惜しむ楽はこの8番ラーメン、東京首都圏では食べることができない。
ハチバングループが中国、タイに出店してなぜ東京に出さないのかが私にはミステリーだ。だが、もしかすると「8番の塩ラーメンを食べたかったら、石川・福井に来なさいよ」ということなのかもしれない。
何でもかんでも首都東京に集めるのが果たして良い事か。
その地方にしかない超美味というのがあったら日本の地方色はもっと魅力的な色彩を放つはずだからである。