京都レストラン「ル・ポン」

京都ならではのオーガニック素材こだわりのカジュアルフレンチ

Shozo Fujii   2014/11/27によって

透明ガラス戸から照明の灯った明るい店内が透けて見える。気軽にフランス家庭料理を楽しめるという噂通り、店の内装はモダンでシンプルだ。通された席についてメニューを眺めている内に身体が温まってきたからまずはシャンパンで喉を潤そう。
Le Pont は「橋」という意味のフランス語だ。その名前の由来を想像しながらシャンパンを味わっている。 オーナーシェフである山岸知之氏の食材へのこだわりがとても深いと知人から聞いていたから、実はこの探訪を心待ちにしていたのである。席に通され、給仕を務める奥様のメニューの説明に耳を傾ける。奥様はご出身が北海道である。そのことから地元北海道で素晴らしい野菜栽培や養豚をしている複数の農家に繋がることができた。現在の「ル・ポン」のメニュー構成を支える食材は北海道だけでなく、京都近郊地区の農園によっても供給されている。それらの食材に共通するのはオーガニック(有機)だ。 オーガニックとは、農薬や化学肥料に頼らない自然の恵みを活かした農林水産業を指す。
 私達は20世紀の化学肥料や化学合成農薬使用によって農産物生産量を飛躍的に増大させることに成功した。しかしそれによって同時に自然環境をおびただしく汚染し生態系を破壊してしまった。それら失ってきたものの大きさへの深刻な反省から生まれた大きな世界的な動きがオーガニックなのである。
土壌改良というのは大変な労力を要する。しかし化学肥料を野菜に施せばその手間が省けて野菜の収量を確保できる。この利便性で、日本の農業は第二次大戦後積極的に化学肥料の導入を国策として推し進めてきた。しかし長期にわたって化学肥料を土壌に注ぎ続けていると、自然の生態系に影響が出てくるのだ。土壌中の菌類やバクテリアなどの微生物は、本来は落ち葉や糞尿などの有機物を分解して生きている。化学肥料に依存するとやがて土中の有機物が不足し、それに伴い微生物も減ってくる。すると無機質を好む細菌が土壌中に繁殖し出すのである。この嫌気性菌が野菜などの病気を引き起こす原因となり、その対処のために農薬を使う。すると土壌中の有用性微生物がますます死んでしまい、土がカチカチに固くなって痩せた土になってしまう。それで即効性のある化学肥料を施す、という悪循環を引き起こしてきたのである。

この反省から起こったのがオーガニックなのだ。 一方、オーガニックの欠点は収量が不安定、少量になりがちであるということだ。そのため販路を拡大安定化させるのが非常に大変で、あえなく理想をあきらめてしまうという若手オーガニック農家も数多いのが現実である。 しかし、彼らが作る野菜は本当に美味しい。その農家が生産する食材を積極的に市場に出し流通を安定化できたら、生産者も消費者も大きな利益と恩恵を受けられる。それによってさらに健全な社会環境が実現していくことこそオーガニックの目標だ。
京都を中心としたエリアのオーガニック農家を束ねてマーケットを開いている「(株)坂の途中」というユニークな名前の法人も「ル・ポン」を支える食材の供給者である。 「ルポン」の人気料理「にんにくロースト、タイム風味」は旭川産の有機にんにく「彦一にんにく」を使用している。有機にんにくはその栽培がとてもむずかしくさらに糖度を40以上にするとなると困難を極めるという。それを「彦一にんにく」は土壌改良によって実現。一株丸揚げのローストを薄皮を剥がしながら頬張ると柔らかい栗でも食べているような甘みと芳醇なにんにくの香りが鼻腔にまで上がってくる。にんにく特有の臭みが少しも感じられない。有機にんにくの美味しさを噛みしめる。
野菜のテリーヌが他のアペリティフと共に出てきた。このテリーヌを初めとして「ル・ポン」の料理に使われている野菜も北海道の「山本農園」産のものが多い。山本農園はオーガニック(有機JAS)農園である。テリーヌは、その中の野菜を噛みしめるたびにその深いコクや強い味わいが思い切り楽しめる。 山本農園産のトマトを使った「北海道産有機トマト3種のテリーヌ」は「ル・ポン」の定番料理であるが、トマトの水分だけで拵えた濃密な味わいは秀逸だ。 「ル・ポン」が供する豚肉料理もまた格別である。この豚肉は北海道・旭川の「養生農園」産の「自然放牧豚」だ。 料理人としての山岸氏の並々ならぬ心意気が伝わってくる。
山岸氏はカジュアルフレンチと自称していらっしゃるが、カジュアルは「食べる気軽さ」であって、料理に対しては真摯そのものだ。食材本来が有する美味しさをできるだけ感じて楽しんでもらうために料理を作り込み過ぎない。それでいて深く優しい味わいは熟練した山岸シェフの高い調理技法故である。「ル・ポン」は本当に美味しい名店である。

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Shozo Fujii

Shozo Fujii @shozo.fujii

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