京都錦市場の「京漬物 桝悟」本店。
店先の最前列に陳列されているのは色瓜の奈良漬け。
桝悟は京漬物を商う店である。
多種の漬物の中で、私見だが、この奈良漬けが特に美味しいと思う。
奈良漬けは別名粕漬けの名の通り、白瓜を酒粕に漬けたものだ。呼称が奈良漬けに定まったのは江戸時代、奈良の漢方医、糸屋宗仙が名づけたことに由来するという。
製法としては塩漬けされた白瓜を酒粕を取り替えながら1年、2年と漬け込む。
元々この酒粕というのは素晴らしい効能を持つ栄養食品なのだ。その麹菌を体内に取り込むことの効用もある。
平安時代は貴族に珍重された高級書品であった。手間暇のかかる食品であるから、値段も高い。白瓜1/2個が一枚の奈良漬けで小売価格¥1000-ほどだ。
奈良漬け用の野菜は白瓜が定番である。だが他に大根、胡瓜、人参も美味い。
さらに、さすが京都と思わせるものに「筍の奈良漬け」がある。これを日本酒を飲みながらひとかじりしようものなら、その味わいの深さに唸ってしまう。
錦市場もそうだが、京都のあちこちに在る京漬物屋はそれぞれに製法が微妙に異なるのだろうか、使用する塩の種類、あるいは塩加減が微妙に違う。店頭の試食品を食べ歩きしてみると、その違いが面白いのだ。
「桝悟」の漬け方が一番私好みである。違いが際立って分かるのが春限定の「菜の花漬け」だ。
「桝悟」のそれは極薄塩味で、菜の花が微かに持つ苦味が実に薄いのである。
地元京都の人たちも、それぞれ贔屓の漬物屋があると聞く。
京野菜の洗練された味を持ってさらに磨きをかけた京漬物は、もはや日本を代表する食文化の華とも言えるのではなかろうか。
帰りの旅行鞄が多少重くなっても、桝悟の京漬物は詰めるだけ詰めて帰る値打ちがある。
もちろん、奈良漬けは絶対に外さない。