京都 詩仙堂

京都の作庭家 3 石川丈山

詩仙堂に秋が訪れると、楓の葉が深紅に燃えて客人をもてなす。ここは、隠棲した江戸時代の武士・石川丈山(1583-1672)の終の住処となった場所である。丈山は中国漢代から、晋、唐、宋にかけての文学や芸術に造詣が深く、それらを駆使してこの建物と庭を造った。丈山の作庭としては、他に東本願寺の飛地境内にある渉成園(しょうせいえん)が知られている。なお、詩仙堂のある一乗寺下り松は、剣豪・宮本武蔵(1582-1645)と吉岡一門の決闘の舞台となったところでもある。

拝観順路

入り口の小有洞の門はとても小さくて、やっとひと一人が通れるほどの幅である。しかも、続く石段が視界の三分の二を遮っていて、その先に何があるのかはまったく見えない。石段を上がり、竹林に囲まれた細い石畳を進む。道は一直線に伸びているが、視線の先は石塀である。行き止まりから、左に折れる小道が続き、またすぐに右に折れる。しかしまだ目的の建物は見えない。さらに石段を上ってようやく嘯月楼(しょうげつろう)の独特の姿を目にすることができるのだ。短い距離であるにも関わらず、道は迷路のように入り組んで、どこまでも先行きを見せない工夫はとても面白い。

まず嘯月楼から入り、有名な詩仙の間と、その隣の座敷から白砂とツツジの庭を眺める。それからいったん外に出て、三段構成になっている庭を巡る。

座敷は庭に向かって大きく開かれており、きゃしゃな柱が数本立つばかりである。まさに、庭を楽しむための部屋だ。季節の移り変わりを眺め、朝夕の光の変化を感じ、晴雨降雪どの天気をも喜ぶ。この庭をひたすら賞でるにふさわしい部屋だといえるだろう。私は11月下旬の昼と、12月下旬の朝にここに座って庭を眺めた。秋の庭は燃えるように輝き(もちろん人はうじゃうじゃいたが)、冬の庭はしっとりと落ち着いていて、ともにすばらしかった。

詩仙堂の庭

詩仙堂では、高さの異なる三段の庭を巡ることができる。一段目は、座敷と同じ高さの庭で、前景に白砂、中景にツツジの刈り込み、遠景に楓が配されている。畳に腰を下ろしてじっと庭に見入っていると、「カーン」と竹の音が響く。鹿脅し(ししおどし)である。鳥のさえずりを聞きながら、透き通るような清々しい気に満たされていく。

庭に降りて小道を歩いていくと、やがて緩やかな坂道を下って二段目の庭に出る。木立に囲まれたやや広い場所と、お茶室、藤棚、鯉が泳ぐ小さな池がある。さらに下っていくと、三段目の庭に至る。ここは、鬱蒼と茂った木々が日陰を作っていて周囲からも隔絶されており、どことなく秘密めいた雰囲気がある。庭ごとに異なる風情があるが、どの庭にいても美しい瀬音がかすかに耳元に届いてくる。

石川丈山−徳川家康の近侍から文人への転身

丈山は59才から亡くなるまでの約30年間、詩仙堂で書を楽しみ、詩を吟じ、作庭に勤しんで過ごした。

1583(天正11)年、徳川家康に仕える侍の子として生まれた丈山は、18才で家康の近侍となった。1614(慶長19)年の大坂夏の陣では、武勇の功を立てたものの、禁を侵したとして家康に蟄居を命じられ、その後33才で出家した。

読書を好み、書を愛し、文学を友とした丈山は、侍の身分を捨てて静かな生活を選んだことに満足していたようだ。

ところで、丈山が営んだ詩仙堂の建設費や晩年の生活費がどこから拠出されていたのか、今もってわかっていない。丈山は家康のスパイとして、後水尾天皇を監視するために修学院離宮の近くに居を構えていたのだとか、希少な蔵書を売りながら暮らしを立てていたのだとか、様々に推測されているが、結論は出ていない。

このシリーズについて

平安京遷都から今日までの1200年間、京の都には、星の数ほどの寺社や庭園が造られました。その中でも名庭と呼ばれる庭には、大きく分けて三つの形式があります(複数を組み合わせたものもありますが)。1)枯山水:石や砂で水の流れを表現したもので、方丈や書院などから眺める庭。2)回遊式:多くは池の周囲を散策しながら、様々な角度から楽しむ庭。3)抽象的枯山水:伝統的枯山水を継承しつつ、モダンなデザインを取り入れた庭。

京都の庭園の歴史は神泉苑から始まり、鎌倉時代以降、上記のような三つの形式に発展していったようです。このシリーズでは、京都の名庭園をご紹介しながら、それらを設計した作庭家(庭園プランナー/庭師)の、庭園に関する独自の考え方を探っていきたいと思います。

1 夢窓疎石:天龍寺 方丈庭園(池泉回遊式)

2 小堀遠州:南禅寺塔頭 金地院 鶴亀の庭(枯山水)

3 石川丈山:詩仙堂(枯山水+池泉回遊式)

4 七代目植治:無鄰菴(池泉回遊式)

5 重森三玲:東福寺 方丈庭園(抽象的枯山水)

なお、平安時代の京都では、庭で船遊びをしたり、建物をつなぐ回廊から景色を楽しんだりしました。回廊巡りを楽しむ京の庭シリーズでは、縦横にはりめぐらされた回廊から鑑賞する庭をピックアップしてご紹介しています。

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