茶の湯では茶碗をも愛でる。京料理でも器の美しさに拘り、四季の移ろいに合わせて器も代えていく。
実はそんな風な思いを遂げさせてくれる店に出会った。「ごだん宮ざわ」という小さな京料理店である。
カウンター席だけのシンプルな店内は茶室のように無駄なものは極力取り除かれていると見えた。オーナー料理人である宮澤政人さんは1975年生まれだ。高台寺和久傳といった名門料理店で腕を磨き、2007年12月に独立、「じき宮ざわ」を開店した.
食材は地場の京丹波の野菜など吟味された旬のものが料理される。どの料理も一品毎に食材の複雑な調和が楽しく、その調和も奥ゆかしさが感じ取れる。
最後に料理人が抹茶を立ててくれる。いかにも京都らしさが漂う演出だ。
米飯は炊きたてを出すだけにとどまらない。煮え端(にえばな)と呼ばれる微かに芯のある一膳目から二膳目、そして三膳目へと、土鍋の中で蒸れて次第に変化していく米の美味しさを味わえる出し方はまさに茶の湯の作法そのものだ。
食する我々は茶の湯に招かれた客人を微かに意識させられる。無駄を一切排除して簡素に尽きる鶯壁に架かる花器や花一輪、黒部杉のそぎが格子状に張られた天井。ささやかだが、茶室としての緊張を感じさせてくれる。そうかといってあくまでレストランであって茶庵ではないから堅苦しく構える必要はない。茶懐石の雰囲気を楽しんで欲しいという、宮澤氏の遊び心であろうか。ごだん、とは、茶の湯で供される食事でも、お酒が入ってよりくつろいで楽しむ茶懐石を指すという。その「ごだん」であるが、それでもやはり茶懐石である。侘茶を彷彿とさせる店内の雰囲気は虚飾を一切配したシンプルさにまず背筋が伸びる。茶懐石の流れにそって、先付、お椀、お造り、焼き物、揚げ物、焚き物、お凌ぎ、ご飯、水物、お菓子の順で供される。最後は抹茶である。料理人がカウンターの向こうで立ちふるまいで薄茶をたてる。もし千利休がこの21世紀に生きていたならば、恐らく茶の湯も椅子に座ってのカウンターという作法を編み出していたに違いない。