とらや、と聞けば、東京赤坂の羊羹で有名な老舗、というイメージがある。
しかし実は京都が発祥である。
はるか400余年の昔、室町時代後期に創業した「虎屋」は、後陽成天皇(ごようぜいてんのう)の在位中(1586~1611)から京都御所の御用達となった。
時代は明治。東京遷都となった際、当時の店主12代、黒川光正は、京都の本店はそのままに東京へと進出した。
これが今日のとらや隆盛の礎となったことは言うまでも無い。
菓子メーカーとして現在では世界的なビジネスを行っている企業体だから、判官贔屓の私としては、大企業のとらやの、しかも結構高額な羊羹を求めにデパートの売り場には、いささか足が向かない。
しかし、京都の一条店だけは一度覗いてみたいとかねがね思っていた。
なぜなら、ここはとらや創業の地に立つカフェだからである。
さらに、そのカフェの建物の設計が日本を代表する建築家・内藤廣(ないとうひろし)氏の手によるものとのことだから、そこでいったいどんな風にお茶とお菓子が楽しめるのだろうか、と内心興味津津だったのだ。
京都御苑西側、中立売御門あたりの辻を西に折れると、目指す「虎屋菓寮京都一条店」は見えて来る。
白地に黒くひらがなで「とらや」と染め抜いたのれんが簡素で美しい。
東西に細長い建物は、南北両側が大きなガラス窓となって、とても明るい。
天井はドーム型に湾曲し、柱がまったくない。
実に広大な空間を確保している。
ゆとりと明るさを強く感じるのはこのためなのだ。
北側の窓辺の席に座る。
ガラス窓を通して庭を見る。
庭の向こうに江戸時代に使われたと思しき立派な蔵が立っている。
北西側隅には小さな稲荷神社がある。蔵の白壁と、鳥居の朱が鮮やかだ。
蔵の前の木は枯れた褐色の葉を付けたままである。
枯れ庭をも見せようとするあつらえだろうか。冬の風情に得心した。
やはりここでは和菓子と抹茶だろう。
「長(とこしえ)の春」という練り切りの和菓子。白餡が優しい美味しさだ。
水仙の黄色い可憐な花が菓子の上に香るようである。
雪中花とも呼ばれる水仙。
寒を抜ければ立春。春が待ち遠しい。